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第一章 メス堕ち前夜

第六話 悪夢へのいざない

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 それにしても不思議なクリームだ。
 これだけ大量に塗っているのに、べたつかない。
 まるで乾いた地に水が染み込むように、すーっと肌に入っていく。

「太ももってこんなにスベスベになるものなのか」

 塗られた場所から、肌がきめ細やかくなっていく。
 あかぎれ、小さな発疹などはクリームが触れたそばから綺麗に治っていってしまう。
 こんな薬、今まであったのだろうか。

「治癒効果もありって、このボディークリーム、すごすぎだろう。怖くなってきたぜ」

 クリームを塗り始めて五分。
 あらかた全身に塗り終わって、オレは大きく背を伸ばした。
 いい加減、お腹が限界だ。
 早く何か食わせてほしい。

 そう言っていても話は始まらない。
 オレは椅子に深く腰を下ろして、じっと着替えの到着を待つ。
 だが、五分経っても誰も来ない。
 
 それとは別に、どういうわけかシャワーを浴びているとき以上に、体がポカポカしてきた。
 体の芯から温まっていく。

「あっ、分かったぞ。湯冷めしないようにってことか。よく考えているんだな」

 きっと血行促進効果があるのだろう。
 風邪を引いた客がいたら評判が悪くなるし、困るのは店の方だからな。
 お店側の行き届いた配慮ってわけだ。
 さすが注文の多い料理店だ。待たせるのも計算に入れてのサービスなんだろう。 
 オレは納得して頷いた。


 着替えが来るまでずっと、暇だ。
 じっとしていることが、こんなにつらいとは。
 それとも、オレの方で何かまだやることがあるのかな。
 さすがに店側から何か説明があってもいい頃だ。
 そう思い、千代紙の方に目を配ると、下の方に書き足した文字があることに気が付いた。

「あれ? さっきは見過ごしていたのかな。どれどれ、なんて書いてあるんだろう」

『塗り残しはございませんか? お顔、そしてにも、しっかり塗ってください』

 そうだ。顔に塗るのを忘れていた。
 オレは手のひらに取ったクリームを引き延ばすようにして、おでこ、鼻、頬、口、首筋に至るまでしっかり塗っていく。
 あれ? でもそう言えば……。

「股間? それってチンポのことだろ? いくらなんんでもやりすぎでは」

 そもそも、どれくらいきちんと塗れているかなんて、チェックできるのだろうか。
 そもそもどうして塗る必要があるのだろうか。塗ったからって何が……って、あれ?

 視線が股間にくぎ付けになる。

「オレのあそこ、なんか元気がないな。寒かったからかもしれないが、しなびて小さくなっていやがる」

 なんだかいつもより、一回り小さいような。
 こんなに弱々しかったっけ。

「あっ、そうか。そういうことか」

 オレは一人で納得する。
 レストランにいることは、頭の中から消えていた。

「きっと、クリームを塗ると元気に復活するんだな。よく分からないが、そういうことだろう」

 ひょっとして、このクリームを大量に擦り込めば、元のサイズよりデカくなるかもしれない。
 オレって天才? すごいこと、考えついちゃったかも。

 思いついたらすぐやる人間だ。
 これで女をひーひー言わせてやるんだ。

 オレは期待を胸に、これでもかとクリームを押し出して、自らのペニスにべちゃべちゃと塗りたくった。
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