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第一章 メス堕ち前夜

第五話 特製クリーム

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 脱衣所の椅子には、いつの間にか千代紙が置いてあった。 
 さらに千代紙を押さえるように、その上にコップ一杯のジュースが置かれている。

『お湯加減はいかがでしたか。今下着に合わせて、お客様を見繕みつくろっております。ジュースで乾いた喉を潤してください』

 千代紙に書かれたメッセージを見て、オレはぷぷっと吹きだした。

「下着に合わせてオレを見繕うって、逆じゃないか。肝心なところを書き間違えるなんて、意外とおっちょこちょいなマスターなのかもな。あぁ、でもせっかく差し入れてもらったジュースだ。遠慮なくいただくぜ」

 ジュースはほんのりと桃の香りがした。程よい甘さと酸っぱい後味が癖になりそうだ。

「くぅー。生き返るぜ。やっぱりいい店だな。普通水かほうじ茶くらいしか出てこないのに、自家製のジュースまで振る舞うなんて気前がいい」

 それでも、ずっと裸でいるのもな。
 湯冷めしてしまったらどうするんだよ。

 そう思っていると、まるで心を読んだかのように、脱衣所の扉に張り紙が現れた。
 いや、心を読んで物を出現させるなんて超常現象、実際にはありえない。
 だからきっと、単に見過ごしていただけなのだろう。

 科学文明が発達した今、魔法やもののけの類を信じるなんてガキのすることだ。
 まぁ、それは置いておいて……。

「どれどれ、なんて書いてあるんだ?」

『当店特製のボディークリームです。全身に隈なく塗り込んでください。乾燥肌によく効きますよ』

 張り紙と、その近くに置かれていたクリームを見て、オレは苦笑する。
 この店、いくら何でもやりすぎだろう。
 でも、乾燥肌なのは確かだし、このクリームはシャンプー以上の高級感が漂っている。

「塗って損するわけじゃないしな。そこまで言うならお言葉に甘えて、めいいっぱい塗ってやるよ。オレは、遠慮ってものを知らないからな」

 チューブからクリームをドバドバと押し出して、腕、肩、お腹、背中、脚にぬっていく。
 クリームは肌に染み込んでいくように、馴染んでいく。

「なんだか体が柔らかく……いや、湯上りだからこんなもんか」

 まだ頭がボーっとしているせいだろうか。
 オレは湧いてくる違和感を無視して、全身にクリームを塗りたくる。
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