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第一章 メス堕ち前夜

第三話 あやしいシャワー室

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 扉の向こうにはまた別の扉があった。

 そこには青いペンキの文字で、

『ここで履き物を脱いでください。お持物とコートはロッカーにお入れください』

 と書いてあった。

「土足厳禁か。洋式に見えて意外と和風なのだろうか。きっと礼儀作法に厳しいお店なんだな」

 あるいは、注意が行き届いていると言うべきか。
 いずれにせよ、郷に入っては郷に従えだ。
 オレは素直に指示に従い、コートとブーツを脱ぐと、猟銃と合わせてロッカーに入れた。

 お店の廊下はさらに続く。その先に、また扉が見えた。

「またかぁ。一体いつになったら食べられるんだよ」

 やれやれとため息をつく。
 だが、文句を言っていてもしかたがない。
 先に進むしかない。
 次の扉は障子になっており、筆文字でこう書かれていた。

『こちらでセーターを脱いでください』
 
 セーターすらNGなのか。
 どうやら予想以上に高級なお店のようだ。
 きっと身分の高いお客が多く、ドレスコードがあるのだろう。
 きちんとした服を持っていない若者に合わせて、貸衣装まで用意しているのだろうか。
 正直今すぐにでも、食べ物にむしゃぶりつきたいが、店のルールを破るわけにもいかない。

 オレはセーターを脱ぎ捨て、Tシャツ一枚になった。

 次の扉の脇にはシャワールームがあった。

 つくづく不思議なつくりの建物だ。
 茶色い扉には黄色い文字で、

『ここでしっかり体を清めてください。頭のてっぺんからつま先まで、しっかりと洗ってください。お着替えは後でご用意いたします』

 と書かれていた。

「あーぁ、わーった、わーった」

 飯を食うためにシャワーを浴びるなんて、聞いたことない話だ。
 でも、今は少し汗臭いし、体を温める意味でもシャワーは意外と悪くないかもしれない。

 面倒なことこの上ないが、ここまで来たら言うことを聞いてやる。
 その代わり美味い飯を食わせてくれよ。

 そうぶつぶつ言いながら、シャワーを浴びる。
 大きいシャワーヘッドから、肩と背中にお湯が当たり、冷え切った体を温めていく。
 ぬくもりが全身が包み込む。

 ちょうどいい湯加減に、張りつめていた気持ちが緩んで、ほっとする。
 なんだか、レストランに来ていることすら忘れてしまいそうだ。
 お腹は気持ちが悪くなるほど減っているのだが。

 シャワー脇の棚には、高級そうなボディーソープ、シャンプーとリンスが備え付けられていた。
 ここまで、ずいぶんとサービスのいいお店のようだ。

「Special Feminizerかぁ。どういう意味だろう」

 英語が苦手なオレにはよく分からないが、容器のデザインからして間違いなく高級ブランドだろう。
 手の平に広げた白いボディーソープから、どことなく華やかな香りが漂ってくる。
 せっかくの高級品だ。使いつくしてやる。
 タダだからという理由だけで使いすぎるのは、貧乏性の悪い癖だが、石鹸ぐらいいいだろう。
 大量のボディーソープを体に付けて、泡立てながら全身を洗っていく。
 細やかな泡に包まれると、体の芯からじわじわと暖かくなっていく。
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