【R18】美少女専門学園 強制"性転換"部 特別洗脳コース【TS】

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第三章 美少女学園一年目 芽吹き根付く乙女心

【第110話】 記憶の扉

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「翔ったら、ハンバーグに目がなくてね。目を離したすきに私の分まで食べちゃって」

 香織の話の内容が、頭に入ってこない。
 汗が冷えていく。
 頭が、胸がずきずきと痛む。
 香織の楽しそうな昔話を聞くたびに、翔という名前を聞くたびに、つばさに得体のしれない感情がこみあげてくる。

(翔、負けちゃだめだ。思い出せ)

 心の隙間をかいくぐるように、声が頭をこだまする。
 たまに来る、発作的な頭痛に紛れて聞こえてくる声だ。

 封印された記憶が、つばさに主人格を奪われて矮小化した翔の人格が、禁断の扉の向こうで暴れていた。
 脳の性別を変えられ、記憶に蓋をされ、そして女性ホルモンによって体の性別まで奪われつつある。
 それでも、かろうじて生き残った岡村翔の残滓が、香織の声や公園の景色、何よりも昔話を聞くことで目を覚ましつつあった。

 そんな事情を知る由もないつばさは、急に襲ってきた異変に翻弄されていた。

 顔色は、刻々と悪化していく。
 皮膚が青白くなり、唇の色も濃くなっていく。
 チアノーゼ反応を起こしたがごとく、血の気が引いていく。

 つばさの急変に気が付いた香織は途中で話を止めた。
 明らかに異常な様子だ。

「末舛さん、大丈夫? ごめんなさいね、私としたことが自分のことに夢中になってしまって」

 苦しそうにうつむく少女を心配そうにのぞき込む香織の顔は、まるでわが娘を思いやる母親のようだ。
 つばさと一緒にいるだけで、香織は母性本能をくすぐられた。
 見れば見るほど、本人と錯覚するほど似ている。
 朗らかで優しそうな笑い方や、負けず嫌いな雰囲気。
 どれをとっても翔の生き写しのようだ。

 香織が昔話をしたくなったのは、心のどこかで彼女が翔であってほしいと思ったからかもしれない。
 ずっと行方不明の息子がどこかで奇跡的に生きていて、自分のところにやってきてくれる。
 そんな奇跡があったらいいなと、常に思っていたからかもしれない。

 だから急に苦しみだしたつばさを見て、香織は気が気ではなかった。
 何かの発作もちなのだろうか。
 私にできることはないだろうか。
 そう自問しながら、様子を探る。

 虚ろな目をしながら苦しむつばさの口から、本人も思ってもない言葉が漏れた。
 
「大丈夫よ。心配しないで……ママ」

 頭痛はひどくなる一方だ。
 胸の奥がつかえて息苦しい。
 無意識のうちに、つばさは香織の肩に体重を預けた。

 香織はつばさの肩を優しく何度も撫でる。

 そうだ。救急車だ。
 救急車を呼ばないと。

 ポーチを漁って、急いで携帯電話を取り出そうとする香織。
 そんな彼女に、ベンチの後ろから近づいてくる二人の少女がいた。

 つばさと同じ制服を着たハーフの双子だ。

「すいません。あたしたちつばさの友達なんですけど」

「その子、たまに発作があって」

 二人の平坦な声を聞いて、香織は嫌な予感がした。
 心配という感情が一切こもっていなかったからだ。

 香織は咄嗟に、具合の悪そうなつばさを抱き寄せる。
 まるで娘を守る母親のように。

 アリスとイリスは、それも予想済みと言いたげに笑うと、ガーゼにしみこませた薬を香織の鼻と口に押し当てた。

 急な展開に理解が追い付かず、混乱する香織。
 いったい何が起こっているのだろう。

 香織の意識は、無警戒に薬を吸い込んだことで、すぐに薄れていく。
 香織の体は、隣に座るつばさと同じように、ぐったりとして力が抜けていく。

(ど、どうして……)

 意識を手放す間際、聞こえてきたのは双子の諭すようなセリフだった。

「忘れるの。今日のことは全て夢。何もなかったの」

「忘れるの。あなたは誰にも会っていなかった。今日見たことは全て夢。あなたの妄想なの」
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