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第三章 美少女学園一年目 芽吹き根付く乙女心

【第70話】 再教育(70)あおい

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■あおいサイド(24)

「ダンス・フォー・オールナイト?」

 首を傾げるあおいに、女子生徒の一人が写真を見せる。
「ほら、あおい。これだよー。みんな華やかなパーティードレスで、彼氏にエスコートされて踊るの」

 差し出された写真には、満天の星空の下、仮設ステージで躍る二十組の美少女たちが、スットライトを浴びて輝いている様子が写っていた。
 どのカップルも、どこか初々しく、それでいてセクシーだ。

 賑やかなダンスパーティーの写真を囲みながら、きゃっきゃっと女子生徒たちは騷ぐ。

「すごく本格的でしょ。やっぱり社交ダンス位できないとね」
「そうよね。学校からのサービスで、ドレスはキチンと採寸してくれるし、デザインも選びたい放題だし」

「あたし、絶対優勝するんだ」
「あたしだって、負けないよぉ」
「あたしも頑張るわ。だって優勝できたら、あのお屋敷の最上階に泊まれるんでしょ」

 あのお屋敷とは、政財界の要人しか泊まることが許されないと噂されている高級ホテルのことだ。
 あおいが住んでいるバロック建築の豪邸以上に、厳しくセキュリティ管理されている。

 海を一望できる最上階は、巨大な一枚ガラスになっている。そこからの景色は、さぞかし絶景だろう。
 優勝すれば、そんな一泊数十万円の部屋に、彼氏と二人きりになれる。
 皆が憧れるのも当然かもしれない。

「まぁ優勝は置いておいても、ここで踊った二人はラブラブになって必ず結ばれるってお話よ」
「それそれ。あたしも聞いた。素敵よね」

 BS学園はトロピカルリゾートのようなトランス島にあるが、島からは特別な許可がないと出られない。
 このような慢性的に娯楽が不足した、ほぼ学生だけの環境にさらされることで、ある心理的な効果が生まれる。

 それは、男女ともに異性を求める欲求が高まるというもの。
 無人島に近い環境は、人の生存本能を刺激する。
 つり橋効果と同様に、子孫を残したいという欲望が無意識に沸いてくる。
 特に男子は性欲が最高に高まる年頃だ。
 露出の多い夏服を着た、全国から集められた美少女たちとエリートの男子生徒たち。
 紳士なスーツでビシッと決めた男子たちと穢れを知らない美少女たちが、扇情的なドレスで一晩体を密着させながら、ロマンチックな音楽に合わせて躍るのだ。
 そのままの成り行きで初夜を迎えるカップルも沢山いる。

 学園側は表向きは性的な交わりを禁止しているが、ピルやコンドームが容易に入手可能ということは、黙認しているのだろう。

 あおいの心や考え方は、女子生徒に囲まれることにより、こうしている今でも、少しずつ女性化が進んでいる。

(でも、みんなの前で彼氏と躍るなんて)

 そう思うだけで、ぎゅっと卵巣が引き締まり、女性ホルモンが体内に撒き散らされる。

 すでにを前提に考えはじめてしまっていることに、あおい自身自覚がない。

 美少女にハーレムのように囲まれているのに、あおい自身、彼女たちの誰かを恋人にしようという考えに頭が及ばない。

「なんか、あおいって不思議なのよね。どういうわけか、女に目覚め始めたばかりって感じがして」
「そうそう。なんでかな。彼氏って言葉だけで、顔が真っ赤になるし。信じられないくらい、うぶよね」
「だよね。こんなに可愛いから、絶対男子と付き合ったことあると思ってたのに、もしかしてまだ経験ないとか」

「さすがにそれはないと思うけど。そういえば、あおいって入学式の時はまだ子供っぽい体つきだったよね」
「そうだったわね。あの時はあたしより胸、小さかったのに、今じゃ」
「Cはあるよね。育ち盛りなのかな。いいなぁ。羨ましい。胸で負けたら、あたし、もうあおいに勝てる部分がなくなっちゃうのに」

 とりとめのないガールズ・トークが延々と続く。


 そうしている間にも、あおいに彼氏がいないという噂は、男子の中で広まっていった。

 クリスティーナは、本人は否定しているが、どうみても聡といい雰囲気だし、つばさもどうやらようやく好きな人と結ばれたらしい。

 美少女三人組のうちの最後で最大のターゲット。
 誰があおいを堕とすのか、どうしたら堕とせるのか。
 まだチャンスがあるという期待と、高すぎる倍率に対する絶望が蔓延する。
 いずれにせよ、あおいと親しい男子がいない今、レースは横一線だ。
 こうして、あおいをめぐるし烈なつばぜり合いが始まろうとしていた。

 誰一人、彼女の体が性転換の真っ只中であることを知ることなく。
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