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番外編 BS学園のない世界
IF STORY 葵&翔
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*これは、BS学園がなかった世界のお話です。
本編とはパラレルワールドになっております。
『祝・市立船星学園サッカー部全国優勝』
軽やかな秋空の下、学校をぐるりと囲む銀杏並木は、黄色に染まっていた。
大きな垂れ幕が、正門近くで風に揺れている。
その垂れ幕を、二人のサッカー部員が誇らしげに見つめていた。
「やったね、翔君。大会ダントツの二十得点で、決勝ゴールまで決めちゃうんだもん。役者が違うよ」
身長一八五センチの堂々とした体格のエースストライカーの肩を、葵はポンと叩いた。
「いや、お前の絶妙なアシストのおかげだぜ。それに葵がノート貸してくれていなかったら、赤点で試合どころじゃなかったからな。そういう意味で、ダブルアシストだよ」
「翔君は、授業中はいつも寝ているからね。夢を追いかけるのはいいけど、留年だけはしないでね」
「あぁ、親友。そのための葵だろ」
翔は歯を見せて、ニカッと笑う。
「そうやって、人をまるでネコ型ロボットみたいに言うのはやめてくれ。まったく調子がいいんだから」
いつもの事ながら、翔の軽い態度に葵は呆れる。
試験の内容まで予想して作った葵のノートを借りて、一夜漬けで勉強して赤点を間逃れる。
毎回、その繰り返しだ。
まったく要領がいいんだか、悪いんだか。
でもその笑顔を見ると、葵もつられて笑顔になってしまう。
葵は思う。
翔君はずるい。
人気アイドル同士のビックカップル・岡村隆司と一条香織の息子にして、一年生からサッカー部のエースだ。
男の自分から見ても、イケメンだと思う。
写真を見る限り、小さい頃はお母さんに似て可愛らしい感じだったけど、中学校あたりからお父さんに似て男らしい感じに変わってきている。
まぁ、どちらにせよ、美形であることには変わりないんだけど。
「どうした葵。オレの顔に何かついているか?」
「い、いや。翔君が羨ましいなって。女の子にモテモテだし」
「葵だってモテるじゃないか。この前だってラブレターを……」
「それは言わない約束だよね。あれは男子生徒からのだったんだから。軽いトラウマだよ」
「悪い悪い。そうだったな。でも、学園祭のあれで優勝しちゃったんだし、仕方がないだろ」
あれ、というのは女装コンテストのことだ。
セーラー服を着ることになるなんて、葵は夢にも思っていなかった。
だけど、仕方がなかったのだ。
ほぼ全会一致でクラス代表に選ばれてしまったのだから。
四十九票中、四十八票が葵で、残り一票が翔だった。
「翔君も入れたってことだよね。裏切者め!」
「お互い様だろ。オレに一票入れたのは葵だろ。どんな嫌がらせだよ」
「いや、こっちは結構本気だったよ。翔君絶対女装も似合うと思うから。体は筋骨隆々だけど、顔は整っているし」
「そうか? でも、いずれにせよ葵ちゃんには敵わないけどな」
「翔君まで、葵ちゃん呼ばわりしないでよ。いまだに陰でそう呼ばれているんだから……」
女装コンテストは最悪の結果だった。
葵はクラス投票だけでなく、コンテスト本番まで満票で優勝してしまったのだ。
そしてついには、本来出場するはずのない、ミス市立船星にまで選ばれてしまった。
皆、口々に「千年に一人の美少女」だの、「世界三大美少女」だの言ってくる。
自分のミスコンの時の写真を、大切そうに保管している男子生徒を見かけた時は、さすがに引いた。
いや、こっちにはその気はないからね、全く。
葵は思い出して、口を尖らせた。
「本当、災難だったよ。あれ以来、女子からも女子扱いされるし」
葵はうつむき加減に首を振る。
「葵は可愛いからな。男子生徒の制服を着ていなければ、女子にしか見えないし」
「フォローになってないよ! 僕は男だし、好きなのも女の子! この前彼女だってできたんだよ」
「なにぃ!? ミス船星の葵に彼女が!? 一体いつの間に? 浮いた話がなかったから、女に興味がないのかと思ってたぜ」
文武両道で品行方正な親友についに春が。
翔は、自分のことのように嬉しかった。
「酷いよ、翔君。自分だって、年相応の男だからね。写真もあるし」
そう言って、スマホを翔に突き付ける。
そこには制服姿の葵と、すらっとした長髪の美少女が肩を寄せ合って映っている。
その少女に、翔は見覚えがあった。
いや、見覚えどころではなく、サッカー部であれば知らない人はいないだろう。
「あっ、チアリーダーのアリス先輩じゃん。先輩たちが全員玉砕したっていう……」
「ふふっ、すごいでしょ。振られる覚悟で告白したら、『葵君のこと、あたしも好きだったの』って言ってくれて」
ロシア人と日本人のハーフのアリスは、ファンクラブができるほど人気がある。
「そうか、葵も隅に置けないな。オレも振られたのに」
「えっ!? 翔君って振られたことあるの?」
「普通にあるさ。オレ、基本バカだからな。サッカーのことしか考えてないし。親が有名人だと付き合いづらいっていうのも、あるみたいだしな」
そう。翔君は入学前から、サッカー以外でも超の付く有名人だ。
小さい頃誘拐された時も、大きなニュースになったらしい。
幸い、自首を促された犯人が警察に出頭したことで、解決したらしいけど。
葵は納得したように、うんうんと頷く。
有名人は大変だよね。
本編とはパラレルワールドになっております。
『祝・市立船星学園サッカー部全国優勝』
軽やかな秋空の下、学校をぐるりと囲む銀杏並木は、黄色に染まっていた。
大きな垂れ幕が、正門近くで風に揺れている。
その垂れ幕を、二人のサッカー部員が誇らしげに見つめていた。
「やったね、翔君。大会ダントツの二十得点で、決勝ゴールまで決めちゃうんだもん。役者が違うよ」
身長一八五センチの堂々とした体格のエースストライカーの肩を、葵はポンと叩いた。
「いや、お前の絶妙なアシストのおかげだぜ。それに葵がノート貸してくれていなかったら、赤点で試合どころじゃなかったからな。そういう意味で、ダブルアシストだよ」
「翔君は、授業中はいつも寝ているからね。夢を追いかけるのはいいけど、留年だけはしないでね」
「あぁ、親友。そのための葵だろ」
翔は歯を見せて、ニカッと笑う。
「そうやって、人をまるでネコ型ロボットみたいに言うのはやめてくれ。まったく調子がいいんだから」
いつもの事ながら、翔の軽い態度に葵は呆れる。
試験の内容まで予想して作った葵のノートを借りて、一夜漬けで勉強して赤点を間逃れる。
毎回、その繰り返しだ。
まったく要領がいいんだか、悪いんだか。
でもその笑顔を見ると、葵もつられて笑顔になってしまう。
葵は思う。
翔君はずるい。
人気アイドル同士のビックカップル・岡村隆司と一条香織の息子にして、一年生からサッカー部のエースだ。
男の自分から見ても、イケメンだと思う。
写真を見る限り、小さい頃はお母さんに似て可愛らしい感じだったけど、中学校あたりからお父さんに似て男らしい感じに変わってきている。
まぁ、どちらにせよ、美形であることには変わりないんだけど。
「どうした葵。オレの顔に何かついているか?」
「い、いや。翔君が羨ましいなって。女の子にモテモテだし」
「葵だってモテるじゃないか。この前だってラブレターを……」
「それは言わない約束だよね。あれは男子生徒からのだったんだから。軽いトラウマだよ」
「悪い悪い。そうだったな。でも、学園祭のあれで優勝しちゃったんだし、仕方がないだろ」
あれ、というのは女装コンテストのことだ。
セーラー服を着ることになるなんて、葵は夢にも思っていなかった。
だけど、仕方がなかったのだ。
ほぼ全会一致でクラス代表に選ばれてしまったのだから。
四十九票中、四十八票が葵で、残り一票が翔だった。
「翔君も入れたってことだよね。裏切者め!」
「お互い様だろ。オレに一票入れたのは葵だろ。どんな嫌がらせだよ」
「いや、こっちは結構本気だったよ。翔君絶対女装も似合うと思うから。体は筋骨隆々だけど、顔は整っているし」
「そうか? でも、いずれにせよ葵ちゃんには敵わないけどな」
「翔君まで、葵ちゃん呼ばわりしないでよ。いまだに陰でそう呼ばれているんだから……」
女装コンテストは最悪の結果だった。
葵はクラス投票だけでなく、コンテスト本番まで満票で優勝してしまったのだ。
そしてついには、本来出場するはずのない、ミス市立船星にまで選ばれてしまった。
皆、口々に「千年に一人の美少女」だの、「世界三大美少女」だの言ってくる。
自分のミスコンの時の写真を、大切そうに保管している男子生徒を見かけた時は、さすがに引いた。
いや、こっちにはその気はないからね、全く。
葵は思い出して、口を尖らせた。
「本当、災難だったよ。あれ以来、女子からも女子扱いされるし」
葵はうつむき加減に首を振る。
「葵は可愛いからな。男子生徒の制服を着ていなければ、女子にしか見えないし」
「フォローになってないよ! 僕は男だし、好きなのも女の子! この前彼女だってできたんだよ」
「なにぃ!? ミス船星の葵に彼女が!? 一体いつの間に? 浮いた話がなかったから、女に興味がないのかと思ってたぜ」
文武両道で品行方正な親友についに春が。
翔は、自分のことのように嬉しかった。
「酷いよ、翔君。自分だって、年相応の男だからね。写真もあるし」
そう言って、スマホを翔に突き付ける。
そこには制服姿の葵と、すらっとした長髪の美少女が肩を寄せ合って映っている。
その少女に、翔は見覚えがあった。
いや、見覚えどころではなく、サッカー部であれば知らない人はいないだろう。
「あっ、チアリーダーのアリス先輩じゃん。先輩たちが全員玉砕したっていう……」
「ふふっ、すごいでしょ。振られる覚悟で告白したら、『葵君のこと、あたしも好きだったの』って言ってくれて」
ロシア人と日本人のハーフのアリスは、ファンクラブができるほど人気がある。
「そうか、葵も隅に置けないな。オレも振られたのに」
「えっ!? 翔君って振られたことあるの?」
「普通にあるさ。オレ、基本バカだからな。サッカーのことしか考えてないし。親が有名人だと付き合いづらいっていうのも、あるみたいだしな」
そう。翔君は入学前から、サッカー以外でも超の付く有名人だ。
小さい頃誘拐された時も、大きなニュースになったらしい。
幸い、自首を促された犯人が警察に出頭したことで、解決したらしいけど。
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