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第三章 美少女学園一年目 芽吹き根付く乙女心

【第32話】 再教育(32)つばさ

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■末舛つばさサイド(11)(過去)

 翔が誘拐されてから半年が経った。
 その日明人は、新たな洗脳装置の紹介を早紀から受けていた。

「つばさもそろそろの友達が必要な頃よ」

 そう言って取り出したのは、ゴーグルのような装置だった。
 百聞は一見に如かずということで、試しに装着した明人が驚きの声をあげる。

「すごいなこれは。本当に別世界にいるみたいじゃないか」

 早紀が完成させたのはVR装置。
 嗅覚や触覚までを含めて五感が再現されて、リアルに被験者の脳に送られる。
 まさにフルダイブ型VRの先駆けと言える技術の結晶が、ここにあった。
 天才科学者は巷で発売される十年以上も前から、実用レベルで完成させていたのだ。

「装置は既に出来ていたんだけど、ソフトが大変だったのよ」

「その悪魔じみた技術と発想力。性転換専門の学校を作るって話も、冗談に聞こえなくなってきたぜ」

「あら。冗談と思ってたの? もう建築は進んでいるのよ。世界一の美少女を、性転換によって生み出すのが、あたしの夢なの。つばさも適齢期になったら、そこの学校に通ってもらうつもりよ」

「恐ろしいよ、君は。全て有言実行だからな」

 明人は震えが止まらない。早紀は「期待しているから」と発破をかけて部屋を出ていった。


 翌日。翔はいつものように洗脳調教を受けていた。
 深いトランス状態の翔は、以前に増してはっきりした人格を持つようになっていた。

「今日はつばさにプレゼントがあるんだ」

「新しいお人形さん?」

「お人形さんもいいんだけど、つばさにもっと必要なものさ。いい娘だから、目を閉じてごらん」

 素直に目を瞑った翔に、明人は例のVR装置を取り付ける。

「ここは……どこなの?」

 目を開けた翔は、ビックリした声をあげる。
 催眠状態にあるため、本当に別の場所に転移したように感じているのだろう。

「はなぞの幼稚園だよ。つばさちゃんは、今日から毎日ここに通うんだ」

 翔が健全な女の子として大きくなっていくために必要なもの。
 それは、女の子扱いされながら、同じ年齢の友達と過ごす日々だ。
 ただし、翔を普通の幼稚園に通わせるわけにはいかない。
 誘拐事件は風化していないし、戸籍の手配にも時間がかかっているからだ。
 VRであれば、どこにも行かず、翔に女の子としての経験を積ませることができる。

 VRの世界で翔の周りに集まってきたのは、同い年の女の子たちだ。
 その様子を、明人は共有モニターで観察している。
 女の子たちのリアルで生き生きとした表情に、明人は息をのむ。
 本当にこれがAIなのだろうかと、疑ってしまうほどの完成度だ。

 囲まれて戸惑う翔に、女の子たちは嬉しそうに話しかける。
 新しい仲間ができたことを、歓迎しているようだ。

「あたし、すみれ。よろしくね」
「あたしは、かえで」

「ぼ、ぼくはつばさだよ」

「つばさちゃんかぁ。可愛らしいお名前ね」
「ちょうどあたしたち、お人形さんで遊んでいたの。つばさちゃんも一緒にどう?」

 翔が周りを見渡すと、サッカーで遊ぶ男の子たちが見えた。

「ど、どうしよう」

 お人形さんもいいけど、サッカーも捨てがたい。
 どっちで遊ぼうかと悩んでいる翔の元に、ボールが飛んでくる。

「あっ。ぼくのリカちゃんが……」

 ボールは翔の人形に当たり、服を真っ黒に汚してしまう。
 首がもげそうになっている。
 大切な人形メチャクチャにされて、翔は言葉を失う。
 自然と涙が湧いてくる。催眠状態にあるためか、涙腺が脆くなっているようだ。

「ケンタ! つばさちゃんのリカちゃんに何てことをするの? 謝りなさい」
「そうよ。つばさちゃん、泣いちゃったじゃない」

 女の子たちは口々に翔を庇う。
「何があっても、あたしたちはつばさちゃんの味方だよ」と言いたげだ。

「ぼく、泣いてなんか……泣いてなんか……ぐすん」

「あぁ……そんなところで遊んでいるお前たちが悪いんだろ」

 ケンタは暴言を吐きつつ、気まずそうに去って行った。

「まったく、男子って乱暴なんだから。あたしのつばさちゃんを泣かせて、絶対に許さないわ」
「すみれの言う通りよ。つばさちゃん。あんな奴ら無視して、あたしたちと遊びましょう」

「ぐぅんっ。う……うん。ありがとう」

 涙が渇いたところで、翔は女の子たちとおままごとをして遊びだした。
 すみれとかえでは、あやとりなど女の子の遊びを翔に教えていく。

 久しぶりに同い年の友達と話せたのが嬉しかったのだろうか。
 翔は、いつも以上に楽しそうな表情を浮かべている。
 この日はみっちり五時間、日が暮れるまで翔は女の子たちと遊び続けた。 
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