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【3rd】BECOME HAPPY!
3rd episode エピローグ
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エピローグ
パールフェリカがベッドの上で遅めの朝食をとり終え、しばらくした頃。
シュナヴィッツとネフィリムが揃って見舞いにやって来た。
2人はここへ来る前、別々にラナマルカ王へ謁見し、そのまま大将軍クロードや宰相キサス、副宰相ゼーティスなど重鎮らも交えての会議に顔を出し、区切りのついた朝と昼の間の今、来る事が出来た。
「おや、ミラノは“みーちゃん”に戻ってしまったのかい?」
パールフェリカはいつまでもベッドに居たくないと訴えて、既にソファに移り、“うさぎのぬいぐるみ”を抱えてくつろいでいた。
「──ええ。“うさぎのぬいぐるみ”の方がパールにとって負担が少ないらしいので」
パールフェリカとミラノは、窓を見る事が出来る部屋のソファに居る。シュナヴィッツとネフィリムは彼女らの対面、窓を背にするソファに腰を下ろした。
「おはようございます! ネフィにいさま、シュナにいさま」
「おはよう」
「おはよう。パール、具合はどうなんだ?」
シュナヴィッツの問いに、パールフェリカは満面の笑みを浮かべる。何故か“うさぎのぬいぐるみ”の両手を掴み、前へ押し出して、言葉にあわせてバンザイをさせる。
「元気、いっぱいよ!」
「……パール……」
「私元気だから、ミラノ“人”になる? なっちゃう??」
パールフェリカは再び“うさぎのぬいぐるみ”を抱き寄せて言った。
ミラノは振り回されながらもつっこみは入れたが、特に力を入れて抵抗するという事は無い。好き勝手させているという風である。
「遠慮をしておくわ」
ゆっくりと言うその声は相変わらず淡々としている。
「え~! もったいない!」
いつもの返事だが、パールフェリカは立ち上がると“うさぎのぬいぐるみ”を片手にぶんと振り回し、もう一方の拳を振り上げた。
「それじゃあちっとも面白くないのよ!!」
“うさぎのぬいぐるみ”は、勢いでソファの背もたれにどすっとぶつかり、そこに転がる。パールフェリカの手はあっさりと離れ、叩きつけられてしまったようだ。
「…………」
ミラノはゆっくりと両手をついて体を起こし、そこに座った。少しだけ、パールフェリカから距離をあけている。
「これだけの状況が揃っていて、なんっでミラノを“人”にしないでおく手があるっていうの!? 最高の暇つぶし、最上のウォッチネタ!!」
叫んでから、パールフェリカは両手をどんとテーブルにつき、前のめりでシュナヴィッツの方を向いた。
「ねえシュナにいさま、昨日私がヘギンス先生のところに行ったり、色々してたけど、“人”のミラノと“2人っきり”で何してたの??」
シュナヴィッツはパールフェリカの妙な問いに、形の良い眉を歪めた。
「ミラノが文字を覚えたいというから、絵本の字を教えていたが?」
パールフェリカは少しだけ顔を背け、なんと──『ちっ』と小さな声で呟いたのである。
すぐにまた元気良く顔を上げ、今度はネフィリムにずいと、テーブルを挟んだまま近寄った。
「ねえネフィにいさま、昨日私サリア連れて部屋飛び出しちゃったじゃない? あの後“人”のミラノと2人っきりで何してたの??」
先程から“人”と“2人っきり”という単語が強調されている。
ゆったりとソファにもたれるネフィリムは、腕を組んで余裕の笑みを浮かべている。
「召喚獣や霊に関する質問を、ミラノから受けていたが?」
パールフェリカは目を細め、疑わしそうにネフィリムを見ながら、顔をすいーとシュナヴィッツへ向ける。シュナヴィッツの方を向いた時には、きょとんとした美少女フェイスに変貌している。
──そして。
「そだ! シュナにいさま、ミラノの着替え、のぞいた?」
その言葉に、シュナヴィッツが体を曲げて咳き込んだ。呼吸を急いで整え、叫ぶ。
「僕が!? そんなマネするか!!」
「…………シュナ、のぞいたのか……?」
ネフィリムの言葉にシュナヴィッツは膝ごと兄の方へ向け、真面目な顔で言う。
「いえ、兄上。僕はそんな事絶対にしません!」
それらを無視してパールフェリカは2人の間に入る。
「ネフィにいさま、エルトアニティ王子様があーんな事しちゃったからって、ネフィにいさままでミラノに変な事してないわよね?? 昨日遅い時間にミラノと帰って来てたらしいけど??」
再び疑わしい目のパールフェリカに、ネフィリムは目を細める。
「……さっきから何の確認かな、パール。私がするはずがない」
「ふーん……──それで、シュナにいさま、ネフィにいさま」
パールフェリカは離れておとなしく座っていた“うさぎのぬいぐるみ”の片腕を手探りで引き寄せ、胸の前でぐいと押し出し、兄らに突きつけた。勢いで、“うさぎのぬいぐるみ”の手足と耳はぷらんぷらんと揺れている。
悪魔のような、極上の美少女スマイルでパールフェリカは問う。
「ミラノには、いつ告白するの?」
「………………」
「………………」
「………………」
大人3人から声が出る事は無く、数秒が流れた。
シュナヴィッツとネフィリムはゆっくりと顔を見合わせた。やはりお互いに言葉が出てこない。耐え切れずシュナヴィッツはパールフェリカを見た。“うさぎのぬいぐるみ”を見ないように顎を上げ気味である。
「な、なにを言ってるんだ? パール」
シュナヴィッツは手を口元に持っていき、表情を隠そうとしている。何せ、ミラノは“うさぎのぬいぐるみ”の姿をしているが、パールフェリカの腕の中に居るのだ。赤い刺繍の目でも、あわせる事は不可能だ。
「えーー、だってシュナにいさまったら最初っからよね? “人”のミラノ見てずっと変だしー。絶対これ“落ちたな”って思ったもの! ネフィにいさまも──」
「私のどこが、パールにそう思わせているのか、詳しく聞きたいね」
余裕のポーカーフェイスで、立ったままのパールフェリカを見上げるネフィリム。パールフェリカはきょとんとした表情を返す。
「え。だって、ミラノってば、ネフィにいさまの好みをまるまま形にしたみたいじゃない? むしろ120%……理想200%? ──あれ? ちがう?? おっかしーわねぇ」
「………………」
腕を組んで、いつものあっけらかんとしている風に見えるパールフェリカを、ネフィリムは目を細めて見ている。
「絶対ネフィにいさま、ミラノにぞっこんなるって思ったのに。私ってばもうちょっと観察力鍛えるべき? ね、にいさま、私修行足りてない??」
きょとんとした美少女フェイスで見下ろしてくるパールフェリカに、ネフィリムは返す言葉を、ひどく珍しい事だが、見つけられない。
「………………」
腕を組んで首をひねっているパールフェリカを、彼女の腕の中から見上げ、ミラノは思う。
──ここにも、狸がいたのね。しかも、兄より格上だわ。
素直で可愛いパールフェリカ、誰もがそれを疑わず、すっかり弄ばれていたらしい。
召喚お披露目パーティとやらに行った時、ミラノはパールフェリカを“耳年増”かもしれないと思った事がある。
パールフェリカは、パーティが始まると笑顔で大人達の間を泳ぎきった。その事を、忘れていた。どうやら、パールフェリカは、実年齢以上には精神年齢が発達していそうである。
ミラノはようやっと、パールフェリカの性格らしきものが見えた気がした。腹の読めなさ具合は、ネフィリムの上だ。
ネフィリムもシュナヴィッツも無言になって、結局2人ともあらぬ方を見ている。ミラノは仕方なくパールフェリカに声をかける。
「パール、あなた……」
非難でもなんでもない淡々とした声だが、パールフェリカはそれを塗りつぶすような声を出す。
「だって! ミラノは私の召喚獣で、よーするに! 神様だって相性抜群って太鼓判おしてるのよ? それで私の大好きなミラノをね、にいさま達が気に入らないはずはないって思ってたのよ! でもまさか……たったの7日でなんて……ミラノ、恐るべしっ!!」
「……………………」
兄2人を完全沈黙に追いやったパールフェリカは、ついにミラノをも沈黙させた。
シュナヴィッツがソファに座りなおし、咳払いしつつ、なんとか普段通りの声を出す。
「パール、確かにミラノは召喚獣として優秀だが、僕は別に──」
「え? シュナにいさまったら、そんな赤い顔して否定するの?」
「…………」
シュナヴィッツは途切れた言葉を飲み込んで立ち上がると、部屋の中央へ逃げた。次はネフィリムが口を開くが──。
「パール、人間の私達が“召喚獣”の──」
「うっそだぁ! ネフィにいさまその辺もうどうでもいいって顔してるわよ!」
「…………」
どうやら、兄2人ともに、13歳になったばかりのパールフェリカに完敗のようである。ネフィリムもまたソファから立ち上がり、逃げた。
その兄2人の背を振り返るパールフェリカ。
「全く、2人とも否定しちゃうの??」
パールフェリカはゆったりした動きで、“うさぎのぬいぐるみ”を目立つようにソファの背もたれの上にすとんと立たせる。
「でもさ……ミラノ、そうよね? ミラノなら気付いてるわよね??」
「…………」
「…………」
兄2人はミラノをこそっと見る。
ネフィリムはミラノが気付いている事はわかっているが何を言うのかと、シュナヴィッツは耳まで赤くして、それでも気になって“うさぎのぬいぐるみ”を見ている。
それらから顔を逸らして、ミラノはぽつりと言う。
「………………そうね」
「ほらぁ! で、にいさまたち、いつミラノに告白するの!?」
「パール、告白の意味を間違えていないか?」
シュナヴィッツがパールフェリカの方を向いて言う。もうミラノにばれてしまって、それ以上で告げる意味があるのか、と。
「えー。でも、ミラノはさ、ちゃんと面と向かって、本気で言われないと相手にしないカンジしない? ね、そうでしょ? ミラノ」
「………………………………」
そして大人3人は沈黙する。
ミラノからすれば、告白によって恋愛がどうのという年齢でも無いのだが、パールフェリカの年頃ではそれは必須項目のようで、しかし何と応えたものかわからず、ミラノは返事を保留にした。
「……あっれぇ? なんかみんなリアクションが微妙ね……」
そう言った後、ひゅっと息を吸い込んで、ぱしんと両手を口元に持って行った。上半身をばっと後ろに引いた。そして得意の大声である。
「え!? ええ!? えええ!? ええええーーー!? も、ももも、もしかしてこれ、まだ黙っといた方が面白い事になった!? やだ、どうしよう! だってもう放牧するの飽きちゃって! え? どうしうよう! 私先走っちゃった!? ねぇ、ミラノ!!! 私、痛恨のミス!!??」
放牧の意味が理解し難いところだが、ミラノはしぶしぶ答える。
「……………………知らないわよ。私に聞かないで」
黙りこむ3人。
その微妙な空気を切り裂くようにパールフェリカは叫ぶ。
「ええいっ! もういいわっ!! いい? にいさまたち! ミラノがいいって言っても、だめよ! ミラノの召喚主は私なんだから、私のお眼鏡にかなうくらいでないと、ミラノのお婿さんにはしてあげられないわね!!」
偉そうに、どこか演技臭く、しかしたどたどしさもある言葉遣いでパールフェリカは宣言した。
「……パール、お願いだから無駄に煽らないでちょうだい…………」
“うさぎのぬいぐるみ”が力なく言ったが、パールフェリカは聞いておらず、一人にやにやとほくそ笑んでいたのだった。
>>> To Be Continued ...
パールフェリカがベッドの上で遅めの朝食をとり終え、しばらくした頃。
シュナヴィッツとネフィリムが揃って見舞いにやって来た。
2人はここへ来る前、別々にラナマルカ王へ謁見し、そのまま大将軍クロードや宰相キサス、副宰相ゼーティスなど重鎮らも交えての会議に顔を出し、区切りのついた朝と昼の間の今、来る事が出来た。
「おや、ミラノは“みーちゃん”に戻ってしまったのかい?」
パールフェリカはいつまでもベッドに居たくないと訴えて、既にソファに移り、“うさぎのぬいぐるみ”を抱えてくつろいでいた。
「──ええ。“うさぎのぬいぐるみ”の方がパールにとって負担が少ないらしいので」
パールフェリカとミラノは、窓を見る事が出来る部屋のソファに居る。シュナヴィッツとネフィリムは彼女らの対面、窓を背にするソファに腰を下ろした。
「おはようございます! ネフィにいさま、シュナにいさま」
「おはよう」
「おはよう。パール、具合はどうなんだ?」
シュナヴィッツの問いに、パールフェリカは満面の笑みを浮かべる。何故か“うさぎのぬいぐるみ”の両手を掴み、前へ押し出して、言葉にあわせてバンザイをさせる。
「元気、いっぱいよ!」
「……パール……」
「私元気だから、ミラノ“人”になる? なっちゃう??」
パールフェリカは再び“うさぎのぬいぐるみ”を抱き寄せて言った。
ミラノは振り回されながらもつっこみは入れたが、特に力を入れて抵抗するという事は無い。好き勝手させているという風である。
「遠慮をしておくわ」
ゆっくりと言うその声は相変わらず淡々としている。
「え~! もったいない!」
いつもの返事だが、パールフェリカは立ち上がると“うさぎのぬいぐるみ”を片手にぶんと振り回し、もう一方の拳を振り上げた。
「それじゃあちっとも面白くないのよ!!」
“うさぎのぬいぐるみ”は、勢いでソファの背もたれにどすっとぶつかり、そこに転がる。パールフェリカの手はあっさりと離れ、叩きつけられてしまったようだ。
「…………」
ミラノはゆっくりと両手をついて体を起こし、そこに座った。少しだけ、パールフェリカから距離をあけている。
「これだけの状況が揃っていて、なんっでミラノを“人”にしないでおく手があるっていうの!? 最高の暇つぶし、最上のウォッチネタ!!」
叫んでから、パールフェリカは両手をどんとテーブルにつき、前のめりでシュナヴィッツの方を向いた。
「ねえシュナにいさま、昨日私がヘギンス先生のところに行ったり、色々してたけど、“人”のミラノと“2人っきり”で何してたの??」
シュナヴィッツはパールフェリカの妙な問いに、形の良い眉を歪めた。
「ミラノが文字を覚えたいというから、絵本の字を教えていたが?」
パールフェリカは少しだけ顔を背け、なんと──『ちっ』と小さな声で呟いたのである。
すぐにまた元気良く顔を上げ、今度はネフィリムにずいと、テーブルを挟んだまま近寄った。
「ねえネフィにいさま、昨日私サリア連れて部屋飛び出しちゃったじゃない? あの後“人”のミラノと2人っきりで何してたの??」
先程から“人”と“2人っきり”という単語が強調されている。
ゆったりとソファにもたれるネフィリムは、腕を組んで余裕の笑みを浮かべている。
「召喚獣や霊に関する質問を、ミラノから受けていたが?」
パールフェリカは目を細め、疑わしそうにネフィリムを見ながら、顔をすいーとシュナヴィッツへ向ける。シュナヴィッツの方を向いた時には、きょとんとした美少女フェイスに変貌している。
──そして。
「そだ! シュナにいさま、ミラノの着替え、のぞいた?」
その言葉に、シュナヴィッツが体を曲げて咳き込んだ。呼吸を急いで整え、叫ぶ。
「僕が!? そんなマネするか!!」
「…………シュナ、のぞいたのか……?」
ネフィリムの言葉にシュナヴィッツは膝ごと兄の方へ向け、真面目な顔で言う。
「いえ、兄上。僕はそんな事絶対にしません!」
それらを無視してパールフェリカは2人の間に入る。
「ネフィにいさま、エルトアニティ王子様があーんな事しちゃったからって、ネフィにいさままでミラノに変な事してないわよね?? 昨日遅い時間にミラノと帰って来てたらしいけど??」
再び疑わしい目のパールフェリカに、ネフィリムは目を細める。
「……さっきから何の確認かな、パール。私がするはずがない」
「ふーん……──それで、シュナにいさま、ネフィにいさま」
パールフェリカは離れておとなしく座っていた“うさぎのぬいぐるみ”の片腕を手探りで引き寄せ、胸の前でぐいと押し出し、兄らに突きつけた。勢いで、“うさぎのぬいぐるみ”の手足と耳はぷらんぷらんと揺れている。
悪魔のような、極上の美少女スマイルでパールフェリカは問う。
「ミラノには、いつ告白するの?」
「………………」
「………………」
「………………」
大人3人から声が出る事は無く、数秒が流れた。
シュナヴィッツとネフィリムはゆっくりと顔を見合わせた。やはりお互いに言葉が出てこない。耐え切れずシュナヴィッツはパールフェリカを見た。“うさぎのぬいぐるみ”を見ないように顎を上げ気味である。
「な、なにを言ってるんだ? パール」
シュナヴィッツは手を口元に持っていき、表情を隠そうとしている。何せ、ミラノは“うさぎのぬいぐるみ”の姿をしているが、パールフェリカの腕の中に居るのだ。赤い刺繍の目でも、あわせる事は不可能だ。
「えーー、だってシュナにいさまったら最初っからよね? “人”のミラノ見てずっと変だしー。絶対これ“落ちたな”って思ったもの! ネフィにいさまも──」
「私のどこが、パールにそう思わせているのか、詳しく聞きたいね」
余裕のポーカーフェイスで、立ったままのパールフェリカを見上げるネフィリム。パールフェリカはきょとんとした表情を返す。
「え。だって、ミラノってば、ネフィにいさまの好みをまるまま形にしたみたいじゃない? むしろ120%……理想200%? ──あれ? ちがう?? おっかしーわねぇ」
「………………」
腕を組んで、いつものあっけらかんとしている風に見えるパールフェリカを、ネフィリムは目を細めて見ている。
「絶対ネフィにいさま、ミラノにぞっこんなるって思ったのに。私ってばもうちょっと観察力鍛えるべき? ね、にいさま、私修行足りてない??」
きょとんとした美少女フェイスで見下ろしてくるパールフェリカに、ネフィリムは返す言葉を、ひどく珍しい事だが、見つけられない。
「………………」
腕を組んで首をひねっているパールフェリカを、彼女の腕の中から見上げ、ミラノは思う。
──ここにも、狸がいたのね。しかも、兄より格上だわ。
素直で可愛いパールフェリカ、誰もがそれを疑わず、すっかり弄ばれていたらしい。
召喚お披露目パーティとやらに行った時、ミラノはパールフェリカを“耳年増”かもしれないと思った事がある。
パールフェリカは、パーティが始まると笑顔で大人達の間を泳ぎきった。その事を、忘れていた。どうやら、パールフェリカは、実年齢以上には精神年齢が発達していそうである。
ミラノはようやっと、パールフェリカの性格らしきものが見えた気がした。腹の読めなさ具合は、ネフィリムの上だ。
ネフィリムもシュナヴィッツも無言になって、結局2人ともあらぬ方を見ている。ミラノは仕方なくパールフェリカに声をかける。
「パール、あなた……」
非難でもなんでもない淡々とした声だが、パールフェリカはそれを塗りつぶすような声を出す。
「だって! ミラノは私の召喚獣で、よーするに! 神様だって相性抜群って太鼓判おしてるのよ? それで私の大好きなミラノをね、にいさま達が気に入らないはずはないって思ってたのよ! でもまさか……たったの7日でなんて……ミラノ、恐るべしっ!!」
「……………………」
兄2人を完全沈黙に追いやったパールフェリカは、ついにミラノをも沈黙させた。
シュナヴィッツがソファに座りなおし、咳払いしつつ、なんとか普段通りの声を出す。
「パール、確かにミラノは召喚獣として優秀だが、僕は別に──」
「え? シュナにいさまったら、そんな赤い顔して否定するの?」
「…………」
シュナヴィッツは途切れた言葉を飲み込んで立ち上がると、部屋の中央へ逃げた。次はネフィリムが口を開くが──。
「パール、人間の私達が“召喚獣”の──」
「うっそだぁ! ネフィにいさまその辺もうどうでもいいって顔してるわよ!」
「…………」
どうやら、兄2人ともに、13歳になったばかりのパールフェリカに完敗のようである。ネフィリムもまたソファから立ち上がり、逃げた。
その兄2人の背を振り返るパールフェリカ。
「全く、2人とも否定しちゃうの??」
パールフェリカはゆったりした動きで、“うさぎのぬいぐるみ”を目立つようにソファの背もたれの上にすとんと立たせる。
「でもさ……ミラノ、そうよね? ミラノなら気付いてるわよね??」
「…………」
「…………」
兄2人はミラノをこそっと見る。
ネフィリムはミラノが気付いている事はわかっているが何を言うのかと、シュナヴィッツは耳まで赤くして、それでも気になって“うさぎのぬいぐるみ”を見ている。
それらから顔を逸らして、ミラノはぽつりと言う。
「………………そうね」
「ほらぁ! で、にいさまたち、いつミラノに告白するの!?」
「パール、告白の意味を間違えていないか?」
シュナヴィッツがパールフェリカの方を向いて言う。もうミラノにばれてしまって、それ以上で告げる意味があるのか、と。
「えー。でも、ミラノはさ、ちゃんと面と向かって、本気で言われないと相手にしないカンジしない? ね、そうでしょ? ミラノ」
「………………………………」
そして大人3人は沈黙する。
ミラノからすれば、告白によって恋愛がどうのという年齢でも無いのだが、パールフェリカの年頃ではそれは必須項目のようで、しかし何と応えたものかわからず、ミラノは返事を保留にした。
「……あっれぇ? なんかみんなリアクションが微妙ね……」
そう言った後、ひゅっと息を吸い込んで、ぱしんと両手を口元に持って行った。上半身をばっと後ろに引いた。そして得意の大声である。
「え!? ええ!? えええ!? ええええーーー!? も、ももも、もしかしてこれ、まだ黙っといた方が面白い事になった!? やだ、どうしよう! だってもう放牧するの飽きちゃって! え? どうしうよう! 私先走っちゃった!? ねぇ、ミラノ!!! 私、痛恨のミス!!??」
放牧の意味が理解し難いところだが、ミラノはしぶしぶ答える。
「……………………知らないわよ。私に聞かないで」
黙りこむ3人。
その微妙な空気を切り裂くようにパールフェリカは叫ぶ。
「ええいっ! もういいわっ!! いい? にいさまたち! ミラノがいいって言っても、だめよ! ミラノの召喚主は私なんだから、私のお眼鏡にかなうくらいでないと、ミラノのお婿さんにはしてあげられないわね!!」
偉そうに、どこか演技臭く、しかしたどたどしさもある言葉遣いでパールフェリカは宣言した。
「……パール、お願いだから無駄に煽らないでちょうだい…………」
“うさぎのぬいぐるみ”が力なく言ったが、パールフェリカは聞いておらず、一人にやにやとほくそ笑んでいたのだった。
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