拝啓、目が覚めたらBLゲームの主人公だった件

碧月 晶

文字の大きさ
上 下
4 / 26

3「世界観」

しおりを挟む
荷物を置いて、久しぶりに帰ってきた自分の部屋を見回す。

目が覚めたあの後、一週間かけて色々な検査を受けた結果『問題無し』という診断結果が下されたので、めでたく本日無事退院を果たし、こうして家に帰ってくる事ができたのだ。

ちなみに今世の自分の家は豪邸と呼ばれる類いのもので、それを見た瞬間、そういえばゲームでの『俺』は有名企業の社長を父親に持つ次男坊であるという設定だったなと思い出した。

「さてと…」

ベッドに腰かけ、一つ息を吐きだす。

改めて、状況を整理しようと思う。

まず、この世界はBLゲーム『運命のあなたと…』であり、俺はゲームの主人公の『石留いしどめ椿つばき』に転生してしまったらしい。

…そう『BL』ゲームの世界に、だ。

「しかもよりにもよって主人公とか…」

思わず、大きなため息が落とされる。

別にこの世界がBLゲームでも乙女ゲームでもギャルゲームでも構わない。だが、問題は『俺』が『主人公』であるというこの一点だけだ。

前世を思い出した今、俺の性格は正直な所そちらに引っ張られている。そして、前世の俺はどちらかというと消極的な性格で、前に出るよりは進んで後ろに下がって出来ればそのまま背景に溶け込みたいと思うほどのものだった。
だから、『主人公』なんていう嫌でもスポットライトが当たる役なんて御免ごめんこうむりたいのが本音だ。

「ていうか、確かこのゲームって…」

前世では姉がこのゲームにいたくご執心だったので、無理矢理攻略に付き合わされた記憶が蘇る。

このゲームは乙女ゲームやギャルゲームと同じく、全寮制の男子校に通う主人公が攻略対象たちを攻略していくというストーリーだったはずだ。
残念な事に俺はBLゲームなんてものには興味が無かったので攻略対象たちの名前までは覚えていないが、大まかな容姿は覚えている。

…と、そうだ。ここで一旦このゲームの設定…というかこの世界の世界観をおさらいしておこうと思う。

この世界は現代魔法社会で、前世でいうところの『科学』の代わりに『魔法』が進歩して、ありとあらゆる物が『魔力』で動く現代社会だ。

だから、この世界で生きる人々は皆総じて『魔力』を持っており、その属性は『水』『火』『風』『光』『闇』の5つに分類される。
数の傾向としては、『水』属性が一番多く、二番目に『火』属性、三番目に『風』属性、四番目に『光』属性、五番目に『闇』属性といった具合である。

…え?俺はどの属性を持っているのかって?それは…

ちらりと姿見に映る今世の自分を見やる。前世と変わらない真っ黒な髪に、真っ黒な瞳。

先程も言ったように、魔力は五属性に分けられる。
そして、誰が何の属性を持っているのかは髪と眼の色を見れば一目瞭然なのがこの世界での常識だ。
髪と眼の色が青系統であれば『水』属性である。というように『火』ならば赤系統、『風』ならば緑系統、『光』ならば黄系統、『闇』ならば紫系統となるのだ。

…そんな中で、一つ、例外の色がある。それは『黒』の系統色。

通常、一人につき一属性の魔力を持つ。だが、稀に複数の魔力を持って生まれてくる者がいる。
二属性の魔力を持って生まれたならば『灰色』、三属性ならば『濃灰色』、四属性ならば『黒灰色』、五属性ならば『黒色』。

ここまで言えばもう分かるだろう。そう、俺は全ての属性の魔力を有しているのだ。

「これだけ見たらすっごいチートなんだけどなぁ…」

恐ろしいほどのイケメンで、高身長(前世は160センチ後半だった)で、イケボで、おまけに人類史上三人目となるらしい全属性持ち。

BLゲームの主人公という点を除けば、優良物件だろう。

だが、ここはBLゲームの世界。そして、俺はそのゲームの主人公。
ついでに言えば、サラッと前述した全寮制の男子校の入学式が明後日に迫っている。

そして、俺は前世、姉に付き合わされたおかげでこのゲームがどんなストーリーで進むのかを大まかにだが知っている。

だからだろうか。正直言って、不安だ。不安しかない。
どれくらいかというと、まだレベル1なのに問答無用でボス戦が始まってしまった時くらいに。要するに準備不足なのである。

いっそ今からでも入学を辞めようかと思ったが、ゲームの舞台となる全寮制の男子校は国内屈指の名門難関校であるらしく、合格が決まった時両親が手放しで喜んでくれた事を思うとどうしても言い出せなかった。

…よって、最早決定事項である高校への入学の事実は受け入れた上で、どうにか待ち受けているであろうBなL展開を回避するというミッションをこなさなければならない。

「はぁ…前途多難だ」


…果たして、俺はこの世界でやっていけるのだろうか?
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

実はαだった俺、逃げることにした。

るるらら
BL
 俺はアルディウス。とある貴族の生まれだが今は冒険者として悠々自適に暮らす26歳!  実は俺には秘密があって、前世の記憶があるんだ。日本という島国で暮らす一般人(サラリーマン)だったよな。事故で死んでしまったけど、今は転生して自由気ままに生きている。  一人で生きるようになって数十年。過去の人間達とはすっかり縁も切れてこのまま独身を貫いて生きていくんだろうなと思っていた矢先、事件が起きたんだ!  前世持ち特級Sランク冒険者(α)とヤンデレストーカー化した幼馴染(α→Ω)の追いかけっ子ラブ?ストーリー。 !注意! 初のオメガバース作品。 ゆるゆる設定です。運命の番はおとぎ話のようなもので主人公が暮らす時代には存在しないとされています。 バースが突然変異した設定ですので、無理だと思われたらスッとページを閉じましょう。 !ごめんなさい! 幼馴染だった王子様の嘆き3 の前に 復活した俺に不穏な影1 を更新してしまいました!申し訳ありません。新たに更新しましたので確認してみてください!

BLゲームの世界でモブになったが、主人公とキャラのイベントがおきないバグに見舞われている

青緑三月
BL
主人公は、BLが好きな腐男子 ただ自分は、関わらずに見ているのが好きなだけ そんな主人公が、BLゲームの世界で モブになり主人公とキャラのイベントが起こるのを 楽しみにしていた。 だが攻略キャラはいるのに、かんじんの主人公があらわれない…… そんな中、主人公があらわれるのを、まちながら日々を送っているはなし BL要素は、軽めです。

主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。

小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。 そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。 先輩×後輩 攻略キャラ×当て馬キャラ 総受けではありません。 嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。 ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。 だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。 え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。 でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!! ……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。 本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。 こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。

その男、有能につき……

大和撫子
BL
 俺はその日最高に落ち込んでいた。このまま死んで異世界に転生。チート能力を手に入れて最高にリア充な人生を……なんてことが現実に起こる筈もなく。奇しくもその日は俺の二十歳の誕生日だった。初めて飲む酒はヤケ酒で。簡単に酒に呑まれちまった俺はフラフラと渋谷の繁華街を彷徨い歩いた。ふと気づいたら、全く知らない路地(?)に立っていたんだ。そうだな、辺りの建物や雰囲気でいったら……ビクトリア調時代風? て、まさかなぁ。俺、さっきいつもの道を歩いていた筈だよな? どこだよ、ここ。酔いつぶれて寝ちまったのか? 「君、どうかしたのかい?」  その時、背後にフルートみたいに澄んだ柔らかい声が響いた。突然、そう話しかけてくる声に振り向いた。そこにいたのは……。  黄金の髪、真珠の肌、ピンクサファイアの唇、そして光の加減によって深紅からロイヤルブルーに変化する瞳を持った、まるで全身が宝石で出来ているような超絶美形男子だった。えーと、確か電気の光と太陽光で色が変わって見える宝石、あったような……。後で聞いたら、そんな風に光によって赤から青に変化する宝石は『ベキリーブルーガーネット』と言うらしい。何でも、翠から赤に変化するアレキサンドライトよりも非常に希少な代物だそうだ。  彼は|Radius《ラディウス》~ラテン語で「光源」の意味を持つ、|Eternal《エターナル》王家の次男らしい。何だか分からない内に彼に気に入られた俺は、エターナル王家第二王子の専属侍従として仕える事になっちまったんだ! しかもゆくゆくは執事になって欲しいんだとか。  だけど彼は第二王子。専属についている秘書を始め護衛役や美容師、マッサージ師などなど。数多く王子と密に接する男たちは沢山いる。そんな訳で、まずは見習いから、と彼らの指導のもと、仕事を覚えていく訳だけど……。皆、王子の寵愛を独占しようと日々蹴落としあって熾烈な争いは日常茶飯事だった。そんな中、得体の知れない俺が王子直々で専属侍従にする、なんていうもんだから、そいつらから様々な嫌がらせを受けたりするようになっちまって。それは日増しにエスカレートしていく。  大丈夫か? こんな「ムササビの五能」な俺……果たしてこのまま皇子の寵愛を受け続ける事が出来るんだろうか?  更には、第一王子も登場。まるで第二王子に対抗するかのように俺を引き抜こうとしてみたり、波乱の予感しかしない。どうなる? 俺?!

アルファな俺が最推しを救う話〜どうして俺が受けなんだ?!〜

車不
BL
5歳の誕生日に階段から落ちて頭を打った主人公は、自身がオメガバースの世界を舞台にしたBLゲームに転生したことに気づく。「よりにもよってレオンハルトに転生なんて…悪役じゃねぇか!!待てよ、もしかしたらゲームで死んだ最推しの異母兄を助けられるかもしれない…」これは第2の性により人々の人生や生活が左右される世界に疑問を持った主人公が、最推しの死を阻止するために奮闘する物語である。

飼われる側って案外良いらしい。

なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。 なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。 「まあ何も変わらない、はず…」 ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。 ほんとに。ほんとうに。 紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22) ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。 変化を嫌い、現状維持を好む。 タルア=ミース(347) 職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。 最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?

BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください

わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。 まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!? 悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。

自己評価下の下のオレは、血筋がチートだった!?

トール
BL
一般家庭に生まれ、ごく普通の人生を歩んで16年。凡庸な容姿に特出した才もない平凡な少年ディークは、その容姿に負けない平凡な毎日を送っている。と思っていたのに、周りから見れば全然平凡じゃなかった!? 実はこの世界の創造主(神王)を母に持ち、騎士団の師団長(鬼神)を父に持つ尊い血筋!? 両親の素性を知らされていない世間知らずな少年が巻き起こすドタバタBLコメディー。 ※「異世界で神様になってたらしい私のズボラライフ」の主人公の息子の話になります。 こちらを読んでいなくても楽しめるように作っておりますが、親の話に興味がある方はぜひズボラライフも読んでいただければ、より楽しめる作品です。

処理中です...