ヒースの傍らに

碧月 晶

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「おはよう、西条」
「お、おはよう」

土日を挟んで風邪もすっかり治り、登校した月曜日。
教室に入るなり藤原に声をかけられ、びっくりして返事が少しどもってしまった。

「風邪、治ったみたいで良かったよ」

あ…そうだ。

「プリントとか、ありがとう」

先輩から渡された時、藤原から渡すように頼まれたのだと聞いた。

「ううん。それで、泉水先輩とはどうなったの?」
「え?」
「仲直り、できた?」

仲直りも何も…そもそも

「喧嘩なんかしてないけど」
「あれ?そうだったんだ。西条、最近先輩と一緒にいないからてっきり喧嘩でもしたんだと思ってたんだけど……もしかして、姉さん?」
「…っ」

唐突に核心を突かれ、びくりと反応してしまう。
藤原はそんな俺の反応を見ると「なるほどね…」と呟いた。

「姉さんに言われたの?邪魔するなって」
「そんな言われ方はされてないよ。ただ…」
「ただ?」
「協力して欲しいから色々気を使ってって…」

言われただけ。

だから、これは俺が勝手にしてる事。

「…西条はさ、もし泉水先輩と姉さんが付き合う事になったらどうするの?」
「どうって…」

そんなの、決まってる。

「はなれる、よ」

だって、運命なのだと、『文字』が告げているのだから。

いつか俺は先輩の元から去らなければならない。いや、もしかしたら去っていくのは先輩の方かもしれない。

先輩の頭上にある『恋情』という文字は今は紛れもなく俺に向けられている。
けれど、それはいつか必ず失う時がやってくるもので。
いつ何がどうなって『恋情それ』を失う事になるのかは分からないけれど。

でも、きっと今なんだ。
今この瞬間にも失うその時が来るまで、時計の針は進み続けている。

あと、どれくらいの時間が残されているのだろうか。
あと、どれくらいの時間であの『恋情文字』は消えるのだろうか。


…あと、どれくらいで先輩あの人は俺の事を好きじゃなくなるのだろう。

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