ヒースの傍らに

碧月 晶

文字の大きさ
上 下
23 / 55

4

しおりを挟む
終業式が終わって、無事突入した夏休み。

二軒先で行われている古家ふるいえの派手な解体作業音を聞きながら、素麺そうめんを啜る。



あの日、先輩は少しだけお母さん──はるかさんの事を話してくれた。

元々、体が弱い人だったらしく、よく入退院を繰り返していたらしい。
でもふゆちゃんが生まれた時、産後の肥立ひだちが悪く、それから3年後、先輩が高校に入ったばかりの頃亡くなったそうだ。
だから千堂先輩を含めその時同じクラスだった人達はこの事を知っているはずだ、と。


正直、この話を聞いた時、俺は「やっぱり聞かなければ良かった」と思った。

初めて出会った時は変な人という印象しかなかった。
運命だ何だとふざけた事を言ってしつこく絡んできて、仕方なしに昼を一緒する事に了承した時に馬鹿みたいに喜んでいたのが記憶に新しい。

その後も相変わらずその印象は変わらなくて、でも先輩が店の手伝いをしているのを初めて見た時、少しだけそれは形を変えた。

今思えばあれが起点だったんだと思う。きっかけを与えられたそれはその後も徐々に、ゆっくりと、己自身でさえ気付かない速度で確実に変化していった。

「何やってんだろ…俺」

先輩にあんな風に言ったのは、別に同情したとかではない。そうすれば事ある毎に重なるあの人の影を払拭できるかもしれないと思ったからだ。
善意なんて耳障りの良いものじゃない、打算的な行為。それだけに過ぎなかった。

…ずっと不思議だった。

相手は長身の紛れもない男で、挙げ句の果てに『運命の出会いだ』などとほざく奴なのに。何もかも違うのに、どうしてこんなにもあの人と重なるのか。
そのせいで無視しようにも変に気になってしまって出来ないでいたのに、疎ましく思っていたはずなのに、気が付けば頭の中を占めている時間も割合も以前より増えている始末。まるで思考をハイジャックされた気分だ。

…だけど、何となくその理由が分かった気がした。

確信は無い。けれど確実に侵食されているこの現状と合わせてかんがみれば、恐らくこの仮説は間違っていないのだろう。



──────チリン


ああ、まただ。また聞こえる。
あの日からずっと、先輩の部屋で聞いた風鈴の音が耳の奥に残って消えてくれない。

「……なんだ、そういう事か」

思わず自嘲じちょう的に笑ってしまう。ことほか、俺は単純な人間だったらしい。
何だかんだと御託ごたくを並べでも、結局は俺の時間ときは壊れた時計のようにあの時からずっと止まり続けている。

「…やっぱり苦手だな、あの人」

そうだ、風鈴を買いに行こうか。そうすれば聞こえもしない残響にもう悩まされないだろうか。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

Estrella

碧月 晶
BL
強面×色素薄い系 『Twinkle twinkle little star.How I wonder what you are? ────きらきらきらめく小さな星よ。君は一体何ものなの?』 それは、ある日の出来事 俺はそれを目撃した。 「ソレが大丈夫かって聞いてんだよ!」 「あー、…………多分?」 「いや絶対大丈夫じゃねぇだろソレ!!」 「アハハハ、大丈夫大丈夫~」 「笑い事じゃねぇから!」 ソイツは柔らかくて、黒くて、でも白々しくて 変な奴だった。 「お前の目的は、何だったんだよ」 お前の心はどこにあるんだ───。 ─────────── ※Estrella→読み:『エストレージャ』(スペイン語で『星』を意味する言葉)。 ※『*』は(人物・時系列等の)視点が切り替わります。 ※BLove様でも掲載中の作品です。 ※最初の方は凄くふざけてますが、徐々に真面目にシリアス(?)にさせていきます。 ※表紙絵は友人様作です。 ※感想、質問大歓迎です!!

聖也と千尋の深い事情

フロイライン
BL
中学二年の奥田聖也と一条千尋はクラス替えで同じ組になる。 取り柄もなく凡庸な聖也と、イケメンで勉強もスポーツも出来て女子にモテモテの千尋という、まさに対照的な二人だったが、何故か気が合い、あっという間に仲良しになるが…

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

病んでる僕は、

蒼紫
BL
『特に理由もなく、 この世界が嫌になった。 愛されたい でも、縛られたくない 寂しいのも めんどくさいのも 全部嫌なんだ。』 特に取り柄もなく、短気で、我儘で、それでいて臆病で繊細。 そんな少年が王道学園に転校してきた5月7日。 彼が転校してきて何もかもが、少しずつ変わっていく。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 最初のみ三人称 その後は基本一人称です。 お知らせをお読みください。 エブリスタでも投稿してましたがこちらをメインで活動しようと思います。 (エブリスタには改訂前のものしか載せてません)

愉快な生活

白鳩 唯斗
BL
王道学園で風紀副委員長を務める主人公のお話。

学園と夜の街での鬼ごっこ――標的は白の皇帝――

天海みつき
BL
 族の総長と副総長の恋の話。  アルビノの主人公――聖月はかつて黒いキャップを被って目元を隠しつつ、夜の街を駆け喧嘩に明け暮れ、いつしか"皇帝"と呼ばれるように。しかし、ある日突然、姿を晦ました。  その後、街では聖月は死んだという噂が蔓延していた。しかし、彼の族――Nukesは実際に遺体を見ていないと、その捜索を止めていなかった。 「どうしようかなぁ。……そぉだ。俺を見つけて御覧。そしたら捕まってあげる。これはゲームだよ。俺と君たちとの、ね」  学園と夜の街を巻き込んだ、追いかけっこが始まった。  族、学園、などと言っていますが全く知識がないため完全に想像です。何でも許せる方のみご覧下さい。  何とか完結までこぎつけました……!番外編を投稿完了しました。楽しんでいただけたら幸いです。

a pair of fate

みか
BL
『運命の番』そんなのおとぎ話の中にしか存在しないと思っていた。 ・オメガバース ・893若頭×高校生 ・特殊設定有

学園の天使は今日も嘘を吐く

まっちゃ
BL
「僕って何で生きてるんだろ、、、?」 家族に幼い頃からずっと暴言を言われ続け自己肯定感が低くなってしまい、生きる希望も持たなくなってしまった水無瀬瑠依(みなせるい)。高校生になり、全寮制の学園に入ると生徒会の会計になったが家族に暴言を言われたのがトラウマになっており素の自分を出すのが怖くなってしまい、嘘を吐くようになる ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初投稿です。文がおかしいところが多々あると思いますが温かい目で見てくれると嬉しいです。

処理中です...