ヒースの傍らに

碧月 晶

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影法師1

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ザーザーと降り注ぐ雨音をどこか遠くに聞きながら、教師が黒板に授業内容を書いていく様をぼうっと眺める。

「今日は多いな…」

ぽそりと、誰にも聞こえない声で呟く。

突然だが、俺は生まれてこの方『眼鏡』というものが必要になった事がない。
そしてそういう物が必要な奴は前の席に集中するもの。つまり目の良い俺の席は必然的に後ろの方になる。

だが本音を言えば俺は前の方に座りたい。理由は俺のこの目だけが映すものに関係している。

知っての通り、俺は人の『失うもの』が視える。勿論クラスメイトや教師達は例外という事はない。
従って教室のような一定の人数が集まる空間では、常に何かしらの『文字』がいつも俺の視界には映っている。
数個だけの時はまだ良いが、今日のように半分以上の『文字』が視える時は『本来の視界』が妨げられてしまうのだ。

「…ぅ」

黒板は見えないし、視界は気持ち悪い。それに加え、この土砂降りの雨。

…端的に言って最悪だ。


授業が終わるまで残り約30分。終わったら即行で保健室に行こう。


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