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しおりを挟む『…ねえ、月漉』
あの人が好きだった、甘い香り。
『……どこで間違えたのかなぁ…?』
蜜香を放つそれと、笑顔。
『───なんて信じなければよかった』
花が咲く様が好きだった。
『そうすれば───なんてしなくて済んだのに』
今はもう手折られてしまって無いけれど。
********
「────…」
窓ガラスを叩く雨粒の音が聞こえる。どうやら外は雨が降っているらしい。
気怠い湿気の中、体を起こしてカーテンを開ける。
雨は嫌いだ。湿気は鬱陶しいし、洗濯は乾かないし、何よりこういう天気の悪い日は気分が滅入って仕方がない。
「よりによってこんな日に…」
いや、こんな日だからあんな夢を見たのか。
「はぁ…最悪」
夢見も悪かったし、こんな気分じゃ何をする気にもなれない。今日が休日なのがせめてもの救いだ。
「あ…」
とりあえず何か食べようと冷蔵庫を開けようとして、そこに貼り付けてあったとある物が目にとまった。
先輩に貰ったクーポン券。記載してある住所はここからそんなに遠くない。
「………行って、みようかな」
興味本位。ただの気まぐれ。
理由なんて、この鬱屈とした気持ちを紛らわせられるのなら何でも良かった。
「行ってきます」
先輩に貰ったクーポン券と傘を持って、俺は降りしきる雨の中へ踏み出した。
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