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しおりを挟む「つずきくーん、お昼だよ~」
初夏の終わり、雨の日が増えてきた今日この頃。
『運命の出会い』発言をされたあの日から早二カ月。泉水先輩は毎日俺を昼に誘いにくるようになった。
こんな訳の分からない人に俺の平穏な日常が壊されてたまるか、と最初の一カ月はそれなりに…いや激しく抵抗していたのだが
いくら断っても断っても懲りずにやってくる泉水先輩の猛攻に、これは断り続ける方が余計に疲れると判断した俺は無駄な抵抗を止めた。いや諦めた。
それから後の一カ月はずっと先輩とお昼を摂っている。…これが先輩の策略だったとしたら、俺は見事にしてやられたという事になるな。
「先に席取っててー」
食券を買う列に並びに行った後ろ姿を見送って、手近な席につく。
先輩の誘いを受けるに当たって俺は「食堂で食べるなら良い」と交換条件を出した。流石の俺も3年の教室で呑気に弁当を広げて食べられる程図太い神経は持ち合わせていない。
「ここ、いいか?」
「え」
聞き覚えのある声に顔をあげる。
「ああ、どうぞ。どうせ泉水先輩しか座らないので」
「そうか」
大盛りのカレーライスを持って俺の斜め向かいに腰を下ろした、この男前な人は千堂逞先輩。泉水先輩と同じクラスの人で先輩の御友人。
あの日以来、先輩に絡まれる事が多くなったため必然的にお互い顔くらいは知っている、という間柄の人だ。…そういえば、一言二言交わした事はあったが、こうやって面と向かって話すのは何気に今日が初めてかもしれない。
「千秋のやつ、今日はパンじゃないのか。珍しいな」
「そうなんですか」
「ああ、何たってあいつの家は──」
「お待たせ~」
間延びした声が千堂先輩の声を遮ったかと思うと、湯気が立つラーメンを乗せたトレイが俺の向かいに置かれた。
「あれ、逞じゃん。学食珍しいね」
「そういう千秋こそ、今日はパンじゃないのか」
「まーね」
二人の会話を聞きながら、いただきます、と手を合わせて本日のメインおかずである唐揚げに箸をのばす。
うん、美味しい。よく味がしみてる。我ながらバッチリの味付けだ。
ん…?
視線を感じて見ると泉水先輩がこちらを見ていた。
「今日は唐揚げ?いいなー美味しそー」
「あげませんよ」
「えー…何で?今日パンじゃないから?」
「パンじゃなくてもあげませんよ。そろそろ諦めて下さい」
「だって、好きな子とのおかず交換は夢でしょ?」
「………」
人前で何言ってんだこの人。
いや別に人前じゃなけりゃ良いってもんじゃないけども。
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