Estrella

碧月 晶

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「一緒じゃなかったのか」
「違うんだなーこれが」

 

…ん?じゃあどう接点があったんだ?

 

「むかーし昔、あるところに所謂普通の庶民の学校に通う俺と、所謂お金持ちばかりが集まる有名私立に通うイッちゃんがおりました」
「…何で昔話風なんだよ」
「出来心?」
「いや俺に聞くなよ」
「ま、いいや。続けるよー」

 

続けんのかよ。

 

「そんな接点のない二人に、ある日、ある出来事が起こります。イッちゃんの家はニャンコさんを飼っていました。しかしその内の一匹が逃げてしまったのです。そして、あろうことかそのニャンコさんはある少年に怪我をさせてしまったのです」
「その少年ってのがお前か」
「分かっちゃうの早いよ那月君」
「その流れなら普通に分かるだろ」

 

「えー…」と言う祭月を無視して先を促す。

 

「で、怪我ってのは?」
「んー…なんか俺、昔から動物には嫌われるみたいで。その日は公園のベンチで日向ぼっこしてたんだけど」
「爺臭いな」
「そぉ? それで寝ちゃってたんだよね。そこへそのニャンコさんが来て、占領してる俺が気に入らなかったのかな。ここをこう…ザシュッとされちゃって」

 

祭月は右腕の内側を爪で引っ搔くような仕草をした。

 

「まぁ俺はそれに気付かないでそのまま寝てたんだけど」
「いや何でだよ。起きろよ」
「いや~なんか騒がしいなーと思って起きたら黒いスーツ着た人が目の前にいてね」

 

黒いスーツ…

 

「黒田さんか?」
「うん。ちょうど俺を車に乗せてくれてる所だったみたいで、ぼーっとしてる内にイッちゃんの家に連れてかれたの」
「……お前」
「ん?」
「怪我すんの多過ぎねぇか…」
「あはは~」

 
笑って誤魔化しやがったコイツ。


「で、その時イッちゃんも一緒に乗ってて、この時だね。初めて会ったの。抱っこしてるニャンコさんの手に血がついてるからびっくりしたよー」

 
いや絶対驚いたのは砂酉の方だろそれ。


「まあそんなこんなで、それがきっかけでその時からイッちゃんと話すようになってね。傷の具合とか、帰り道によく様子見に来てくれたりしたんだ」
「へぇ」
「ふふっ、面白かったよ。毎回毎回たまたま通りかかっただけだって言うんだよ?しかも尋ね方が最近…どうだ?って娘に久しぶりに話し掛けるお父さんみたいな感じで」

 
その時の事を思い出しているのか、肩を震わせて祭月が笑う。


「学校は違うかったけど、会う回数も増えて、話してく内に口下手なだけなんだって」
「…その口下手ってのはどこをどう判断した訳?」
「うーん、何て言うのかな…喋り方…いや、声、かな」
「声?」
「そう。声がね、凄く分かり易くて、直球だなって思ったんだ」
「…………」



直球…? 



砂酉とは無縁そうな単語に、ひたすら眉を寄せる。


「ん…ごめん、分かんないよね」


「気にしないで」と少しだけ眉尻を下げた祭月に、何か言おうとして、でも何を言えば良いのか迷う俺の心境を知ってか知らずか

祭月はパッと表情を明るくさせ、一つ、手を叩いた。

 

「あ。でも、イッちゃんの声と那月君の声ってそっくりだよね」
「は!?」

 

俺と?砂酉が?

 

「那月君と初めて会った時に思ったんだー」
「………」

 

それは暗に俺も口下手だと言っているのだろうか。

いやでも、俺はあそこまで酷くはないはずだ。…多分。

 

 

「納得いかねー…」と呟く俺に、祭月は「でも俺は好きだよ」と言って笑うから

俺は「あっそ…」とだけ返して、夜空をみるふりをして逸らした視界の端で

 
笑っている気配だけはずっと感じていたけれど

その日見上げた星空は、月でよく見えなかったけれど





俺達は暫く同じ空を見上げていた。
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