Estrella

碧月 晶

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「───虹!」


その声は、もう直ぐで祭月の家に到着するという所で

俺達の何とはなしな会話を遮った。


「あれ?イッちゃんだ」


マンションの灯りをバックに立っているシルエット。
そいつに向かって祭月は駆け寄って行つた。

俺は別段走る訳でもなく、そのまま自分の歩調を保つ。


「え、イッちゃん何でいるの?さっき別れたばっかだよ?」
「お前に用があるからやろ。一応電話したで?」
「え、嘘。…あ、ほんとだ。ごめん気付いてなかった」
「まぁええけどな、お前が電話に出んのはいつもの事やし」
「たっ…!」
「ほれ、忘れもん」

       
そう言って祭月の額を指で弾くと、平べったいプラスチック製の容器を手渡した。


「今日やったばっかで早速忘れるか?普通」
「ごめんごめん、うっかりしてた」
「お前の場合、そういうのが多過ぎるから言うとんねん」
「そかな?」
「ほんま…しゃーないやっちゃな」


逆光に邪魔されずに顔が判別できる距離にまで近付くと

その『イッちゃん』とやらの印象が今朝とは大分変わっている事に気が付いた。


朝見た時はウチの組の奴らとどっこいどっこいな人相だと思ったが

キツく釣り上げられていた目尻は今は柔らかく下げられ、笑う顔は年相応な感じがした。



「……あ゙?誰やお前」



…と、思ったが
俺の存在を漸く捉えたといった顔をすると、それは瞬く間に元通りと相成った。

警戒心剥き出しの獣を連想させる威嚇ぶりは、さっき見たものが幻覚だったのではないかと思える程に差が有りすぎて

きっと狐に化かされた気分とはこういう事を言うのだろうと冷静に考えた。



「那月君、俺の彼氏だよ」
「………は?」




只でさえ友好性など皆無に等しいというのに、祭月がにこやかに発した一言によって

それは更に宜しくないものへと変貌を遂げる事になったのは

お分かり頂けるだろう。





いや、頼む。分かってくれ。
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