Estrella

碧月 晶

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別に急ぐ理由なんて無いはずなのに、自然と早足になる。

見えてきた公園を目前に、それは更に速度を増した。


公園に入ると、ブランコに座る後ろ姿があった。


「あ、おーい!」


声を掛けるよりも先に俺の足音に気付いたのか、祭月は薄茶色の髪を揺らして笑みを浮かべながら手を振ってきた。

近付くと、まだ制服のままの姿に
本当にさっきまで朝の奴と一緒だったのだと、今になってジワジワとくるものがあった。


「結構早かったね。もしかして走ってきてくれたの?」
「…ほら、これ」


揶揄(からか)うように聞かれた質問には答えずに、持ってきたものをズイッと押し付ける。

どうせ正直に答えようと答えまいが、弾んだ呼吸を見れば分かる事。
現にその顔にそう書いてあった。


「ありがとう。那月君も座ったら?休憩がてら」


まるで微笑ましいものでも見ているかのような眼差しはそのままに

隣の空いているもう一つのブランコを指差して、そう誘ってきたから乗る事にした。


「ブランコとか久しぶりだな」
「そう?俺はよく乗るよー」
「まじかよ」
「まじまじ~」


答えながら、ブンブンと振り子さながらに漕ぎ始めた。


今なら、聞けるような気がした。


「…なあ」
「何ー?」
「朝の奴ってお前の知り合いなのか」
「ああ、イッちゃんの事?」


そう言うと俺の顔を見ながら、祭月は揺れていたその動きを止めた。

そして、懐かしむような表情で話し始めた。


「イッちゃんとはね、中学の時知り合ったんだ。
でも、卒業と同時にヨーロッパの方だったかな?あっちに行っちゃって。
その後すぐ俺も引っ越す事になったから、そのまま今まで会えずじまいだったんだ」


そう言って嬉しそうに笑うと、俺から視線を外してまたゆっくりと漕ぎ始めた。


「ついこの間帰ってきたんだって。
それで戻ってきたら俺がいないからって、わざわざ探してこっちに来てくれたんだよ?相変わらず凄い行動力だよねぇ」


クスクスと可笑しそうに笑っている間にも、ブランコはどんどんその速度と振幅を増していく。


「久しぶりに会ったから積もる話もいっぱい合って、夢中になって話してたらいつの間にか寝ちゃってたみたいで。
気が付いたらもう直ぐ暗くなるって時で吃驚したよー」
「…それで戻って来れなかったって事か」
「うん♪そゆことです」
「……………」



…何だろう、やっぱり釈然としねぇ



祭月の話を聞いて大体の事情は分かったが、どこか腑に落ちないと思っている自分がいる。

だが、一体何に引っかかっているのかが分からなかった。


「さて、よいしょっと!」


考え込んでいる俺の横で、掛け声と共にシュタッと着地のポーズを取って

祭月はブランコから勢いよく飛び降りた。


「そろそろ帰ろっか。荷物、ありがとうね」
「…送る」
「いいの?」
「また事故られても困るからな」
「あははっ、確かにね。じゃあ、お願いするよ」




モヤモヤとしたものは晴れなかったが、何となく今はそうしたいと思った。



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