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463.変貌 sideヴィント
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サーヘイド公国。我がヴィーチェル王国から海を渡った大陸にある国で、オラージュ王国の南に位置している。この国は美しい織物・染物が有名で、世界でも有数の産地として栄えている……はずなのだが、
「………」
目の前の光景に、俺は違和感を覚えた。
以前、商談のため訪れた際に見たこの辺りの街は、市場は活気に溢れ、行き交う人々の顔は満ち足りた表情をしていた。
だが、今、俺の目に映っている光景は、記憶よりもどこか荒廃している印象を受けた。
かつてたくさんの店が軒を連ねていた市場があった広場には数えられる程の店しか出ておらず、多くの人々が行き交っていた通りは見る影もない。しかも…
「これは…酷いですね」
通りから少し外れたそこには端材とボロボロの布で作られた住居と思しき家々が立ち並び、そこかしこにやせ細った人間たちが地面に寝転がっている。
「っ」
ここまでとは…
件の武器と劇薬が及ぼした周辺国への影響を、頭では分かっていた。けれど、それは『つもり』だったのだと、今、痛感させられた。
その証拠に、実際に目にして記憶とは大きく様変わりしてしまった光景に戸惑いが隠せない自分がいる。
「落ち着け、ヴァン」
「イグ…」
「色々と思う事はあるだろうが、今は情報を手に入れるのが先だ」
「……ああ、分かってる」
深呼吸して、思考を切り替える。
「行こう」
フードを深く被り直し、改めて俺はこの街へ来た理由を思い出す。
この街はサーヘイド公国の南部にあり、そして以前ユアンがトールと出会った場所だ。
「この辺りか?ユアン」
「はい、ここです」
海へと向かって流れていくコール河の幅は広く、河の中央は俺の腹くらいまで深さがあり、流れも速い。ユアンが指差したのは背の高い草などが生え、ちょうど窪みになっている浅瀬だった。
全員でほぼ同時に上流の方へと目をやる。河は街中を流れ、遠く見える山脈の方から流れてきているようだった。
「オレ、あの山脈の麓に街がないか聞いてきますね」
「ああ。イグ、お前も行ってくれ。二手に別れよう。俺とユアンは物資の調達に行く」
「分かった。気を付けろよ」
「そっちもな」
…さて、と
情報収集はイグとアズライトに任せておけば良いだろう。問題は…
「悪いな、兄ちゃん。これ以上下げると、こっちが立ち行かなくなっちまうんだよ」
物資の調達が予想通り難航している事だろう。
路銀はまだ余裕があるといえばあるが、この先何があるか分からない。出来るだけ節約するに越したことはないだろう。
そう思って、何軒目かの店に立ち寄った時だった。
「───だれか、たすけて!!」
切羽詰まったような声が聞こえ、声がした方を見ようとするよりも早く何かが足元にぶつかってきた。
見ると、そこには幼い男の子がいて。
「おい、大丈夫か?」
ぶつかった衝撃で尻餅をついた男の子に手を差し伸べると、俺とユアンを見上げる黒い瞳にみるみるうちに涙が溜まっていって──
「っ、おねがい!お母さんをたすけて!」
「………」
目の前の光景に、俺は違和感を覚えた。
以前、商談のため訪れた際に見たこの辺りの街は、市場は活気に溢れ、行き交う人々の顔は満ち足りた表情をしていた。
だが、今、俺の目に映っている光景は、記憶よりもどこか荒廃している印象を受けた。
かつてたくさんの店が軒を連ねていた市場があった広場には数えられる程の店しか出ておらず、多くの人々が行き交っていた通りは見る影もない。しかも…
「これは…酷いですね」
通りから少し外れたそこには端材とボロボロの布で作られた住居と思しき家々が立ち並び、そこかしこにやせ細った人間たちが地面に寝転がっている。
「っ」
ここまでとは…
件の武器と劇薬が及ぼした周辺国への影響を、頭では分かっていた。けれど、それは『つもり』だったのだと、今、痛感させられた。
その証拠に、実際に目にして記憶とは大きく様変わりしてしまった光景に戸惑いが隠せない自分がいる。
「落ち着け、ヴァン」
「イグ…」
「色々と思う事はあるだろうが、今は情報を手に入れるのが先だ」
「……ああ、分かってる」
深呼吸して、思考を切り替える。
「行こう」
フードを深く被り直し、改めて俺はこの街へ来た理由を思い出す。
この街はサーヘイド公国の南部にあり、そして以前ユアンがトールと出会った場所だ。
「この辺りか?ユアン」
「はい、ここです」
海へと向かって流れていくコール河の幅は広く、河の中央は俺の腹くらいまで深さがあり、流れも速い。ユアンが指差したのは背の高い草などが生え、ちょうど窪みになっている浅瀬だった。
全員でほぼ同時に上流の方へと目をやる。河は街中を流れ、遠く見える山脈の方から流れてきているようだった。
「オレ、あの山脈の麓に街がないか聞いてきますね」
「ああ。イグ、お前も行ってくれ。二手に別れよう。俺とユアンは物資の調達に行く」
「分かった。気を付けろよ」
「そっちもな」
…さて、と
情報収集はイグとアズライトに任せておけば良いだろう。問題は…
「悪いな、兄ちゃん。これ以上下げると、こっちが立ち行かなくなっちまうんだよ」
物資の調達が予想通り難航している事だろう。
路銀はまだ余裕があるといえばあるが、この先何があるか分からない。出来るだけ節約するに越したことはないだろう。
そう思って、何軒目かの店に立ち寄った時だった。
「───だれか、たすけて!!」
切羽詰まったような声が聞こえ、声がした方を見ようとするよりも早く何かが足元にぶつかってきた。
見ると、そこには幼い男の子がいて。
「おい、大丈夫か?」
ぶつかった衝撃で尻餅をついた男の子に手を差し伸べると、俺とユアンを見上げる黒い瞳にみるみるうちに涙が溜まっていって──
「っ、おねがい!お母さんをたすけて!」
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