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461.4人 sideヴィント
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父上と話した後、俺とイグニートは調べさせていた襲撃者たちの侵入経路の報告をアズライトから受けていた。
「ヴィント様が仰った通り、奴らの侵入経路は『空』からでした」
…やはりか
「どういう事だ?ヴァン」
「聞いた通りだ。おかしいとは思わなかったか?確かに、この城の警備は並大抵の者では侵入する事すら敵わない。…が、それは『地上から』ならの話だ」
「! なるほど…そういう事か」
一体どこから侵入を許したのか、ずっと考えていた。そして、当時の城の警備配置図を見ていて、ふとフォンセの存在を思い出したのだ。
エストレア家の能力は『風』。つまり、こいつか若しくはその力を持つ配下の人間が数人いれば、今回の侵入及び撤退経路が不明な襲撃は可能になるのだ。
無論、何か仕掛けてくるだろうとは思っていた。だが、城ならば安全だと思い込み、完全に油断していた俺の落ち度だ。
…いや、今は後悔するよりもすべき事がある。
「アズライト」
「はい」
「俺たちはオラージュへと発つ」
「…え?ちょ、待って下さいよ!敵陣に直接乗り込む気ですか!?」
「父上と話はもう付いている」
「陛下が…?」
「ああ」
俺は父上が言った言葉をアズライトに伝えた。
「なるほど…そういう事ですか」
それを聞いたアズライトは父上が言わんとしている事を直ぐに理解したようだった。
計画はこうだ。
俺は原因不明の病に倒れ伏せっていると公表する。勿論、表向きには、だ。
俺を国内にいると思わせる事で、俺に裏で自由に動ける期間を与えてくれたのだ。
後は、その病には感染する恐れがあるので、国内への人と物の流れを制限すると発表すれば、諸外国への良い目くらましになるという寸法だ。
「猶予はいつまでで?」
「一ヶ月だ」
俺の言葉にアズライトは「一ヶ月ですか…」と考え込む。
アズライトの反応は最もだろう。だが、この作戦は短期決戦が大前提だ。
それ以上となると、国の経済が危うい上に目くらましの効果も薄れてしまう可能性があるのだ。
「…分かりました。そういう事ならいっちょやってやろうじゃないですか」
にかっと人好きする笑顔でそう答えてくれたアズライトに俺は礼を言った。
それじゃあ、そろそろ…
「聞いていただろう?入っていいぞ」
扉の外にいる人物にそう声をかけると、気付かれているとは思っていなかったのかガタンと音がした。
暫く沈黙が続いたが、観念したのかおずおずと入ってきたユアンに俺は咎める気はないと笑いかける。
「どうしたんだ?」
「…ヴィント様、折り入ってお願いがあります。僕も連れて行って貰えませんか」
「………」
「トールは僕の家族です。ここで大人しく待っているだけなんて出来ません。足手纏いにはなりません。必ずお役に立ってみせますので、どうか…っ」
切実な声。深々と頭を下げてそう頼み込むその姿は、本当に心からトールを想っているのだと分かる。
「顔を上げてくれ、ユアン」
ゆっくりと顔を上げ、不安げにこちらを見上げるユアンの肩に手を置く。
「元よりお前にも来て貰おうと思っていたんだ」
「! ヴィント様…」
「頼りにしているぞ?」
「は、はい!ありがとうございます!」
さて、これで面子は揃ったな。
「直ぐに出発するんですよね?行き先はどこなんですか?」
アズライトの疑問に、全員の視線が俺に集まる。
「サーヘイド公国だ」
「サーヘイド公国?何でそこなんだ?」
イグの質問に俺はユアンへと視線を向ける。
「ユアン、トールと出会ったのはサーヘイド公国だと言っていたな?」
「はい。サーヘイド公国の南部にある海へと続く河口です」
「それがどうかしたんですか?」
三人は揃って首を傾げる。
「思い出してみてくれ。オラージュは四方を高い山脈で囲まれているため、中へと続く街道は限られる。そして、周囲は五つの国が隣接している。その中でベクルル国はオラージュの北に位置し、ベクルル国の大河であるコール河はオラージュを経由し南にあるサーヘイド公国へと流れている」
「!!」
そう言った瞬間、いち早く反応を示したのはイグだった。
「…なるほどな、そういう事か」
全て理解したというように頷くイグに、さすがは俺の親友だと感嘆する。
「サーヘイド公国からオラージュに侵入する気なんだな」
「ああ」
トールがどういう経緯で河に流されたのかは分からないが、オラージュ国内から国外であるサーヘイド公国へと出られたという事は逆にそこから侵入する事が出来るかもしれない可能性があるという事。それに……
「行きましょう、ヴィント様。あの子たちを助けに」
「ついでに戦争も止めにな」
「ついでのスケールがデカすぎません?」
各々の面々を見回す。そこには頼もしい仲間がいた。
「ああ、行こう」
待っていてくれ、アイセ。
「ヴィント様が仰った通り、奴らの侵入経路は『空』からでした」
…やはりか
「どういう事だ?ヴァン」
「聞いた通りだ。おかしいとは思わなかったか?確かに、この城の警備は並大抵の者では侵入する事すら敵わない。…が、それは『地上から』ならの話だ」
「! なるほど…そういう事か」
一体どこから侵入を許したのか、ずっと考えていた。そして、当時の城の警備配置図を見ていて、ふとフォンセの存在を思い出したのだ。
エストレア家の能力は『風』。つまり、こいつか若しくはその力を持つ配下の人間が数人いれば、今回の侵入及び撤退経路が不明な襲撃は可能になるのだ。
無論、何か仕掛けてくるだろうとは思っていた。だが、城ならば安全だと思い込み、完全に油断していた俺の落ち度だ。
…いや、今は後悔するよりもすべき事がある。
「アズライト」
「はい」
「俺たちはオラージュへと発つ」
「…え?ちょ、待って下さいよ!敵陣に直接乗り込む気ですか!?」
「父上と話はもう付いている」
「陛下が…?」
「ああ」
俺は父上が言った言葉をアズライトに伝えた。
「なるほど…そういう事ですか」
それを聞いたアズライトは父上が言わんとしている事を直ぐに理解したようだった。
計画はこうだ。
俺は原因不明の病に倒れ伏せっていると公表する。勿論、表向きには、だ。
俺を国内にいると思わせる事で、俺に裏で自由に動ける期間を与えてくれたのだ。
後は、その病には感染する恐れがあるので、国内への人と物の流れを制限すると発表すれば、諸外国への良い目くらましになるという寸法だ。
「猶予はいつまでで?」
「一ヶ月だ」
俺の言葉にアズライトは「一ヶ月ですか…」と考え込む。
アズライトの反応は最もだろう。だが、この作戦は短期決戦が大前提だ。
それ以上となると、国の経済が危うい上に目くらましの効果も薄れてしまう可能性があるのだ。
「…分かりました。そういう事ならいっちょやってやろうじゃないですか」
にかっと人好きする笑顔でそう答えてくれたアズライトに俺は礼を言った。
それじゃあ、そろそろ…
「聞いていただろう?入っていいぞ」
扉の外にいる人物にそう声をかけると、気付かれているとは思っていなかったのかガタンと音がした。
暫く沈黙が続いたが、観念したのかおずおずと入ってきたユアンに俺は咎める気はないと笑いかける。
「どうしたんだ?」
「…ヴィント様、折り入ってお願いがあります。僕も連れて行って貰えませんか」
「………」
「トールは僕の家族です。ここで大人しく待っているだけなんて出来ません。足手纏いにはなりません。必ずお役に立ってみせますので、どうか…っ」
切実な声。深々と頭を下げてそう頼み込むその姿は、本当に心からトールを想っているのだと分かる。
「顔を上げてくれ、ユアン」
ゆっくりと顔を上げ、不安げにこちらを見上げるユアンの肩に手を置く。
「元よりお前にも来て貰おうと思っていたんだ」
「! ヴィント様…」
「頼りにしているぞ?」
「は、はい!ありがとうございます!」
さて、これで面子は揃ったな。
「直ぐに出発するんですよね?行き先はどこなんですか?」
アズライトの疑問に、全員の視線が俺に集まる。
「サーヘイド公国だ」
「サーヘイド公国?何でそこなんだ?」
イグの質問に俺はユアンへと視線を向ける。
「ユアン、トールと出会ったのはサーヘイド公国だと言っていたな?」
「はい。サーヘイド公国の南部にある海へと続く河口です」
「それがどうかしたんですか?」
三人は揃って首を傾げる。
「思い出してみてくれ。オラージュは四方を高い山脈で囲まれているため、中へと続く街道は限られる。そして、周囲は五つの国が隣接している。その中でベクルル国はオラージュの北に位置し、ベクルル国の大河であるコール河はオラージュを経由し南にあるサーヘイド公国へと流れている」
「!!」
そう言った瞬間、いち早く反応を示したのはイグだった。
「…なるほどな、そういう事か」
全て理解したというように頷くイグに、さすがは俺の親友だと感嘆する。
「サーヘイド公国からオラージュに侵入する気なんだな」
「ああ」
トールがどういう経緯で河に流されたのかは分からないが、オラージュ国内から国外であるサーヘイド公国へと出られたという事は逆にそこから侵入する事が出来るかもしれない可能性があるという事。それに……
「行きましょう、ヴィント様。あの子たちを助けに」
「ついでに戦争も止めにな」
「ついでのスケールがデカすぎません?」
各々の面々を見回す。そこには頼もしい仲間がいた。
「ああ、行こう」
待っていてくれ、アイセ。
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