458 / 485
452.おれもお前も sideアイセ
しおりを挟む「…い、おい、起きろよ!おい!!」
「───…」
誰が叫んでいる声が聞こえ、ゆっくりと意識が浮上する。
「……つッ」
それと同時に後頭部に鈍い痛みが走って、一気にぼやけていた頭が覚醒する。
「ここは…」
痛む箇所を押さえながら身体を起こすと、牢屋のような部屋に入れられている事に気が付く。
そして、ギシギシと不規則に揺れている部屋、充満している潮の香り。
まさか……船の中、なのか?
「…お前、何でおれなんか庇ったんだよ」
「え?」
ぼそりと呟くように発せられた声にそちらへと顔を向けると、部屋を二分している鉄格子を掴み、俺を睨んでいる血色の眼と目が合う。
「あの時、おれなんか庇わなければお前は逃げれただろ」
「…確かに、そうですね」
「っ、なら何で──」
「もう、嫌だったんです。目の前で大事な人が殺されるのは」
「…は?」
俺の言葉に、トールさんは信じられないものを見るように目を瞬かせる。
「…何言ってんだよ、大事な人?おれが?」
「君はユアンさんにとって大事な人です。なら、俺にとっても君は守るべき大事な人です」
「…なんだよ、それ」
「? トールさん?」
「ふざけんなよ!」
ガンッとトールさんが鉄格子に拳を打ち付ける。
「ユアンの大事な人だから?だから庇った?人殺しのくせになに善人ぶってんだよ!」
「………」
「何だよ…何でそんな事するんだよ…おれは…っ、お前なんか死ねばいいって…!」
ぼろりと、血色の眼から涙が零れ落ちる。
「…君は優しい人なんですね」
手を伸ばし、鉄格子越しにその白い頭を撫でる。
振り払われるかと思ったけれど、彼は驚いた顔をしただけでそうする事はなかった。
「怪我はありませんか?」
「………ない」
「そうですか。良かったです」
「っ」
思わず安堵の笑みが浮かぶ。すると、何故か彼は更に血色の眼からボロボロと大粒の涙を零した。
「え!?ちょ、ど、どうしたんですか?やっぱりどこか──」
「ユアンが…」
「え?」
唐突にユアンさんの名前を出されて首を傾げると、彼はゴシゴシと目を擦って涙を止めて口を開いた。
「ユアンが、お前はおれと同じ境遇を持ってるって言ってた。…お前も奴隷だったのか?」
「……はい」
答えると、トールさんの顔が辛そうに歪められる。どうして彼がそんな顔をするのだろう。
「おれは、この見た目のせいで7才で人買いに売られた」
お前はどうなんだというように見つめられる。
「…俺は、4才くらいだったと思います」
それを皮切りに、俺は訥々と自分の過去を彼に話した。
話している間、彼が相槌を打つ事はなかったけれど、眼差しだけはずっと俺を真っ直ぐに捉えていた。
「───そして、ヴァンと出会ったんです」
「………」
話し終えると、彼は物思いに耽るように目を伏せた。
「…おれは、お前が憎い」
「……はい」
「…でも、おれと同じ境遇だった奴に『苦しみ続けろ』なんて言える程、おれは落ちぶれちゃいねえんだよ」
「………え?」
「確かにお前はおれからあの方を奪った。その事実は変わらねえよ。けどな、お前だって被害者だろうが」
「ひ、がいしゃ?」
「そうだろ。おれもお前も、糞みたいな大人共に色んなもん奪われてきたんだ。普通ならしなくても良かった苦労背負わされて、自由も、意思すら与えられなかったのをそう言わねえで何て言うんだよ」
「………」
「何だよ、その顔は」
「いえ…その、そんな風に言われたのは初めてだったので…」
「本当に一回も考えた事なかったのか?」
「はい…」
「お前…本当におれより年上か?」
呆れたような眼差しを向けられ、苦笑する。
…『被害者』か
彼に言われるまで、俺は自分には『加害者』という立場しかないと思っていた。
俺は確かに人殺しだ。その事実はこの先も消える事はない。
けれど、俺は一度だって『自分の意思』でそれをした事はないのだと気付かされた。
1
お気に入りに追加
331
あなたにおすすめの小説
傷だらけの僕は空をみる
猫谷 一禾
BL
傷を負った少年は日々をただ淡々と暮らしていく。
生を終えるまで、時を過ぎるのを暗い瞳で過ごす。
諦めた雰囲気の少年に声をかける男は軽い雰囲気の騎士団副団長。
身体と心に傷を負った少年が愛を知り、愛に満たされた幸せを掴むまでの物語。
ハッピーエンドです。
若干の胸くそが出てきます。
ちょっと痛い表現出てくるかもです。
目が覚めたら囲まれてました
るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。
燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。
そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。
チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。
不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で!
独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
Estrella
碧月 晶
BL
強面×色素薄い系
『Twinkle twinkle little star.How I wonder what you are?
────きらきらきらめく小さな星よ。君は一体何ものなの?』
それは、ある日の出来事
俺はそれを目撃した。
「ソレが大丈夫かって聞いてんだよ!」
「あー、…………多分?」
「いや絶対大丈夫じゃねぇだろソレ!!」
「アハハハ、大丈夫大丈夫~」
「笑い事じゃねぇから!」
ソイツは柔らかくて、黒くて、でも白々しくて
変な奴だった。
「お前の目的は、何だったんだよ」
お前の心はどこにあるんだ───。
───────────
※Estrella→読み:『エストレージャ』(スペイン語で『星』を意味する言葉)。
※『*』は(人物・時系列等の)視点が切り替わります。
※BLove様でも掲載中の作品です。
※最初の方は凄くふざけてますが、徐々に真面目にシリアス(?)にさせていきます。
※表紙絵は友人様作です。
※感想、質問大歓迎です!!
真面目系委員長の同室は王道転校生⁉~王道受けの横で適度に巻き込まれて行きます~
シキ
BL
全寮制学園モノBL。
倉科誠は真面目で平凡な目立たない学級委員長だった。そう、だった。季節外れの王道転入生が来るまでは……。
倉科の通う私立藤咲学園は山奥に位置する全寮制男子高校だ。外界と隔絶されたそこでは美形生徒が信奉され、親衛隊が作られ、生徒会には俺様会長やクール系副会長が在籍する王道学園と呼ぶに相応しいであろう場所。そんな学園に一人の転入生がやってくる。破天荒な美少年の彼を中心に巻き起こる騒動に同室・同クラスな委員長も巻き込まれていき……?
真面目で平凡()な学級委員長が王道転入生くんに巻き込まれ何だかんだ総受けする青春系ラブストーリー。
一部固定CP(副会長×王道転入生)もいつつ、基本は主人公総受けです。
こちらは個人サイトで数年前に連載していて、途中だったお話です。
今度こそ完走させてあげたいと思いたってこちらで加筆修正して再連載させていただいています。
当時の企画で書いた番外編なども掲載させていただきますが、生暖かく見守ってください。
室長サマの憂鬱なる日常と怠惰な日々
慎
BL
SECRET OF THE WORLD シリーズ《僕の名前はクリフェイド・シュバルク。僕は今、憂鬱すぎて溜め息ついている。なぜ、こうなったのか…。
※シリーズごとに章で分けています。
※タイトル変えました。
トラブル体質の主人公が巻き込み巻き込まれ…の問題ばかりを起こし、周囲を振り回す物語です。シリアスとコメディと半々くらいです。
ファンタジー含みます。
嫁側男子になんかなりたくない! 絶対に女性のお嫁さんを貰ってみせる!!
棚から現ナマ
BL
リュールが転生した世界は女性が少なく男性同士の結婚が当たりまえ。そのうえ全ての人間には魔力があり、魔力量が少ないと嫁側男子にされてしまう。10歳の誕生日に魔力検査をすると魔力量はレベル3。滅茶苦茶少ない! このままでは嫁側男子にされてしまう。家出してでも嫁側男子になんかなりたくない。それなのにリュールは公爵家の息子だから第2王子のお茶会に婚約者候補として呼ばれてしまう……どうする俺! 魔力量が少ないけど女性と結婚したいと頑張るリュールと、リュールが好きすぎて自分の婚約者にどうしてもしたい第1王子と第2王子のお話。頑張って長編予定。他にも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる