炎のように

碧月 晶

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446.心強い囁き sideユアン

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「トール」

部屋の隅にうずくまっている背中に、優しく声をかける。

「………あいつは?」
「大丈夫ですよ。大事には至ってませんから」
「……そ」

どことなく、ホッとしたような声にやはり根は優しい子なのだと改めて思う。

トールは、僕がここから南の方にある国で新しい薬草を求めて旅をしていた時に出会った子だ。

あの日、僕は大雨に見舞われ、足止めを食っていた。そんな時、氾濫している河の河口に傷だらけで気を失って流れついていた子供を保護した。
それがこの子だった。

身寄りがないという子供を放っておけるはずもなく、僕は子供の回復を待って国に連れ帰る事にした。
そして、道中、名前がないという子供に僕は『トール』という名を与えた。

トールは暫く僕の友人宅でお世話になっていたが、トールの強い要望もあり、僕の…僕個人の養子として引き取る事になり、今に至るのだが…

「…おれ、あいつらと同じことしちゃった」
「………」
「ユアン、約束破って…ごめん」

僕とトールとの約束。それは『自分がされて嫌だった事は他人にしない』というもの。

「そうですね。それについては悪い子でしたね」
「…っ」
「でも、そう思っているなら、貴方がすべき事はもう分かっていますね?」
「………、でも」
「大丈夫ですよ。あの子も貴方と同じ境遇を持つ子です。きっと、ちゃんと話を聞いてくれますよ」
「おれと同じ…?」
「ええ」

その言葉にちらりとこちらを見る赤い瞳に、笑顔で頷く。
ここで今しがた聞いてきた事をトールに話すのは簡単だ。けれどそれでは意味がないし、何よりトールのためにならない。

だから、

「大丈夫。貴方は僕の自慢の弟子なんですから」

何度でも囁こう。
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