炎のように

425.愁える sideイグニート

「様子、どうでした」


自室前。壁に背を預けて、いつもの……いや、久しぶりに見る飄々とした笑みを浮かべてソイツは立っていた。


「まだ眠ってる」
「そーですか」


鍵を開けて中に入り、アズライトから頼んでおいた調査書を受け取る。
内容は『トール・クラール』という少年について。

『クラール』という姓だが、ユアンさんと血の繋がりもなければ能力もない。
いわゆる養子というやつで、年は確か今年で十四になったはず。あの子の二つ下だ。

ここ暫くの間、ユアンさんに代わって首都に点在する診療所に薬と伝言を届けに行っていた。トールが世話になった所にも行くから彼にとっては里帰りのような意味も含んでいるらしい。
しかし、ここは他の領より広いためもう少し掛かると踏んでいたんだが…、………ん？


視線を感じて顔を上げると、何か言いたげにしているアズライトと目があった。

不思議に思って「何だ」と問い掛ける。


「えﾞ。あー…いや、その」
「？」


彼らしくない煮え切らない返答。
歯に衣着せぬ物言いをするか完全にはぐらかすかのどちらとも違う、言い淀む姿はもしかしたら初めて見るかもしれない。


確実に何かを気にしているようだが…如何せん俺はこの男の事をまだよく知らない。

仕事に関する面でならある程度の能力や性格は把握しているが、逆に言えばそれ以外は何も知らないという事。


………何か、腹立ってきたな。


端的に言えば気に入らない。

だってそうだろう。俺ばかり手の内を晒して、自分は何も晒していないのだから。


「…分かった分かった。言いますって」


何に腹を立てているのかは兎も角、苛ついているのは伝わったんだろう。


降参とばかりに手の平を見せ、アズライトは一つ息を吐き出した。