炎のように

411.被る

「本当にすみません…」
「俺は大丈夫ですよ。それよりユアンさんに怪我がなくて良かったです」
「アル君…」

 

まだ髪先から雫がしたっている俺の頭にユアンさんがゆっくりと手を伸ばす。

一瞬身構えてしまって、けれどユアンさんは特に気にする素振りなく俺が肩にかけていたタオルを被せてくれる。

 
「本気に申し訳ありません…僕にはどうにもこの手の能がないみたいで。いつもは助手の子がしてくれるのですが、毎度叱られてしまうんです」

 
困ったように眉を八の字に下げるユアンさんの表情に、本当に気にしなくて良いのにと思う。

だって…

 

チラリと視線を傍らへと向ける。

 

粉々に割れてしまったティーセット

 

「…すみません」
「どうしてアル君が謝るんですか？」

 

ドジを踏んだのは自分なのにと言いたげな銀の瞳が不思議そうに揺らめく。

 

…だって、俺がちゃんと力を使えていたらきっと防げていた。
 

ユアンさんが脚を引っ掻けてしまった時、俺は一瞬躊躇した。

 

水の力を使うか否かを

 

風の力を使えば良かったのかもしれない。
でも、まだ完璧にコントロール出来ていない代物を屋内で、ましてや隣室にはユアンさんが大切にしている研究室がある。

建物ごと壊してしまいかねないものを使う訳にはいかなかった。

 

そして何より…