炎のように

碧月 晶

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408.アサギ色の医師

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「散らかってますが、どうぞ」

 
案内されるままに着いていくと、城内の奥の、更に奥にある、とある建物に着いた。

確かに部屋の中は様々な形のガラスの容器や見た事もない機械(?)で溢れ返っていて、お世辞にも整頓されているとは言いにくい有様だった。

 

「あの、ここは?」
「僕の研究室です。隣が自室になっています」
「研究室?」
「裏に薬草園もあります。全部ヴィント様が作って下さったんですよ」

 

ヴァンが?

へー…


「あの」
「はい?」
「ユアンさんって『癒し』の能力者なんですよね?」
「? はい、そうですよ」
「その…研究っていうのは…」


困惑したように言い淀んだ言葉の先を理解したのか、ユアンさんは「それはこちらでお話しましょう」と 

研究室を通り過ぎ、隣の部屋へと移った。

その一角に設置されているテーブルにつくように俺に促すと、ユアンさんはそのままキッチンらしきスペースへと入っていった。

カチャカチャと手元を見つめながら、ユアンさんはゆっくりとした口調で話し始める。


「僕は一族の中で変わり者と呼ばれているんです」
「変わり者…ですか?」

 
ユアンさんには似合わない単語だ。

そう思っているのが顔に出ていたのか、顔を上げたユアンさんはクスッと笑った。


「この能力は希少で、その存在が絶対的な権力を持っています。まあ…要するに平たく言えば、その権力に胡坐をかいている人が殆どです」

 
身内の恥をさらすようで残念な事ですが、とユアンさんは銀色の瞳を悲しそうに細めた。

 
「…お金のために治療するなんて絶対に間違ってる。ましてや金額に作用されるなんて…絶対に…」
「あの…?」
「あ…すみません」

 
様子がいつもと違うような気がして声を掛けると、ユアンさんは直ぐにいつもの優しい笑みを口元に湛えた。

 
そういえば、聞いた事がある。『癒し』の力を受けられるのは、ごく限られた者だけだと。その際に支払われる報酬は俺のものとは比べ物にならないとも。

 
…もしかしてユアンさんが変わり者だって言われてるのって

 
はたと思い至った考えを仰ぐように見ると、彼はにっこりと笑みを深めた。

それは、この考えが正しいと判断するには十分な応えだった。

 

無償で、若しくはそれに近い対価での治療。
それも恐らく身分に関係なく、なのだろう。
 

「だから…受け取ってくれなかったんですか?」

 

手伝いを始めてから何度もユアンさんにあの時のお礼を渡そうとした。

けれど、その度に彼は「充分に手伝って貰っているから」とゆるゆると首を振るばかりだった。


「君を助けられた。僕にはそれだけで十分な報酬ですよ」
「……っ、なら薬代として受け取って下さい」

 

せめても、とお願いするが

やっぱりユアンさんは同じように拒否をする。

 
「それこそ、そんな多額な報酬を僕は受け取る訳にはいきません」
「どうしてですか」

 

納得できない。

 

どうして

 

俺は、今まで報酬に応じた仕事を選んできた。

言い換えれば、依頼主側からすればその成果に見合う報酬を支払うのは当然の事。

 

それだけの事を成し遂げたのだという、これ以上ないほど分かり易い意思表示。

 

この感謝してもしきれない想いを伝えたい。でも、言葉はどんなに重ねても時に軽薄に感じさせてしまう時がある。

だから、どんな言葉を並べるよりも確実に伝わる方法を取るべきだと思った。

 


なのに…
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