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383.裏方休務─8 sideアズライト
しおりを挟む「…あいつ、大丈夫かな」
余程気に入ったのか、カパカパと何杯目かを空にして
不意に、彼は小さくそう呟いた。
あいつ、とは恐らくヴァン様の事だろう。
「そういえば毎度の事とはいえ、相変わらずめっちゃくちゃな力ですよねー」
祭当日の今日、太陽がその姿を隠して
夜の帳が落ちた頃
開会の言葉と共に、煌々と夜空を朱く染め上げた灯りが人々の頭上に降り注いだ。
壇上裏では、俺を含めた全員が作業の手を止めて暫しその光景に見入っていた程だ。
あれだけのものを軽々と作り出せてしまうのだから、感動を通り越して尊敬してしまう。
「あれでもこの国随一の強さをお持ちですからね、うちの王子様は。忘れられがちですけど」
そんな中でも、一人だけ見向きもせずに忙しなく動いていたのは
ヴァン様をさらっと貶(けな)せる唯一の人物だけだった。
「まあ、その本人も今頃楽しんでいるでしょう。この日のために頑張ってましたからね」
その様を思い出しているのか、水面を悪戯に揺らしながら
普段もそれくらいやる気を出してくれると良いのにと、くつくつと喉を鳴らしている。
…ん?
あれ?もしかして…
どことなくいつもより柔らかい口調や雰囲気にもしやと思い、試しに聞いてみる。
「…酔ってる?」
「…?」
呼び掛け、顔を上げた彼の頬は仄かに赤みを帯びていた。
ついでに言えば、焦点が定まっていないトロンとした眼を一生懸命俺に合わせようとしている。
これは…完全に
「おお、珍しいもん見た。酔ってますね?」
「…よってませんよ」
それは酔っ払いの常套句だと思いながらも、今の内に存分に目に焼き付けておこうと
滅多に拝めない姿にテンションが上がる。
「…あいつ、嬉しそうに話してたんですよ」
そんな俺を訝しげに見ていたが、飽きたのか
カウンターに肘をつき、グラスの縁を指でなぞり始めた。
「何を?」
脳内で壁をバンバンと叩いて悶えたい衝動をなんとか堪え、辛うじて平静を装って尋ねると
若干呂律が怪しいものの、そこはやはりいくら飲んでも顔色が変わらないと部下達から言われているだけある。
それなりに聞き取りやすい口調で
あの子の方から誘ってくれたらしいとか
だからその分仕事も早く片付けたのだとか
ここ数日のヴァン様としたやり取りを話してくれた。
「……正直、」
沈黙がおりて話し終わったかと思ったが、ややあって彼はまた口を開いた。
「………正直まだ不安はあるけど、神経質になりすぎても解決するわけじゃないのはわかってる。だけど……なによりあの子には、こういう普通のことをさせてやりたいって、思うんですよね…。………………から」
「────…」
酔っているからなのか、普段より饒舌な口調で消えそうな声で付け加えた最後の言葉に
また、思わずその頭に手を乗せてしまったけれど
今度は払い除けられる事はなかった。
『─────…あの子は、昔の俺に似てるから』
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