炎のように

碧月 晶

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370.それだけで

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触れ合っていたそれが、見せつけるようにゆっくりと離れていく。





…………い、いま




漸く追い付いてきた頭で、わなわなと震える指でそこに触れる。





キ、キス…………された?





それに今………









「す…き…?」



ヴァンが、俺を…?



「ああ、お前が好きだ」
「で、でも、俺は…男で…っ」
「分かってる。それでも、お前が好きだ。愛してる」
「え…あ、あの…っ、え、え?…………………な、なんで…?」






そう、何故。

驚きよりも先に頭を占めたのは、『何故』という疑問だった。



アイセが唯一持っていた他人との関わりの場は、自国にいた時を除けば『仕事』のみ。

勿論、優秀な働きをする事で名の知れていたアイセは周りから高い評価を貰っていた。

だが、そこで交わされる賛辞の言葉や好意的な対応はあくまで『社交辞令』に過ぎない。

それ以上の深い意味など無く、仕事をする上で有利になるものとしか認識していなかった。


だから、何の成果も上げていない、しかもヴァンにとって迷惑な存在にしかなっていない自分に

損も得も関係なく、明確な好意を向けられている事が

アイセにとっては不思議でならなかったのだ。







「なんで…って、…プッ…そうだな…」


至極真面目に不思議そうな反応を返す俺に、ヴァンは可笑しそうに小さく噴き出すと
口元に微笑を称えながら、愛おしむように指の背を俺の頬に滑らせた。

その行為に、胸が小さく音を立てた。


「初めは何となく気になる程度だった。でも、お前と過ごしていく内に、お前の色んな顔を知れば知っていく程、興味は関心に変わって。お前に惹かれているのだと気付くのにそう時間は掛からなかった」


頬から顎へと滑っていく指先の感触に、どんどん自分の心臓の音が大きくなっていく。


「怒った顔、楽しそうな顔、照れた顔…笑った顔。そのどれもが俺には愛おしく映るようになった。…俺は、お前の笑顔に惚れたんだ」


顎を持ち上げられて、引き寄せられるままに顔が近付いた。


「俺は、お前が笑っていてくれるのなら、どんな事だってする。何だって出来る、何でもしたい」
「…ッ、そ、なの…俺だって」


そんなの俺だって思ってる。だけど、そうするには…


「だがな、それはお前がいなければ駄目だ。お前がいなければ意味がない」
「……!」

「大切な人が隣で笑っているから、頑張れる。 
隣にいるからこそ、笑っていて欲しい、笑わせてやりたい。
泣いているのなら慰めてやりたい。
困っているのなら力になってやりたい。
…守ってやりたいと思うんだ」


優しい眼差しで、するりと頬を撫でられて


その温もりに誘われたように目尻から一筋、雫が零れ落ちた。
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