炎のように

361.来ないで sideアイセ

ガサガサと草木を掻き分ける音が段々と近付いてくる。


「だめ…」


ふるふると首を振って、後退(あとずさ)りする。

再び耳に届いたその呼び声を聞いて、漸く俺の身体は逃げるという行動を思い出す。



どうして分かったの

どうして来たの

気配は完全に消してきたはずなのに



心臓がわし掴みされたように苦しくなって、爪を立てた。



「アル！待て！」
「………っ」


さっきよりも確実に届くようになった声が、身体に巻き付いて動けなくさせようとする。



嫌だ

聞きたくない

呼ばないで

来ないで

お願いだから…



暗い、月明かりも届かない森の中を脇目もふらず走り抜ける。

逃げても逃げても、追いかけてくる存在は振り切れなくて

伝い落ちた涙が水滴になって、まるでそこに俺がいたという痕跡を残すようにポツポツと濡らしていく。



足場の悪い木の上に進路を変えても、その勢いが衰える事はなくて

振り返れば、闇の中に光る月と紅が見えた。




「…っ、も、来るな！！」





彼との間を分断するように、腕に巻き付けた風で地面を切り裂き

風壁を作り出した。




「…ッ！」




吹き荒れる風刃(ふうじん)を目の当たりにして、彼は漸く動きを止めた。