炎のように

碧月 晶

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346.枕

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窓から入るそよ風が髪を揺らす。


そういえば開けっ放しだったっけ、と

瞼の向こうでカーテンがはためく音を聞いていると、何かが髪を梳いている感覚に気付く。

触れては、離れて
また触れて、離れていく

一定のリズムで、その心地良い感触にゆっくりと意識が浮上していく。


「……………」







懐かしい、夢を見た。


喧嘩して、いじけてしまったウル。


発端は何だっただろうか、とてもくだらない事だったようにも思える。

でも、その時は本当にどうしたら良いのか分からなくて

どうやったら許してくれるかって、必死だった。




額と額を合わせる。





この時から、その行為が俺達の『仲直り』の仕方になったんだ。








「起きたか?」


頭上から降ってきた、もう聞き慣れてしまった声に身体が強張った。


「え、」


目を向ければ、俺を覗き込むその顔が横に映る。

手が俺の頭に乗せられていて、さっき感じたのはヴァンが撫でていたのだと気付いた。

しかも、その俺の頭はソファーに座るヴァンの太腿(ふともも)の上に乗せられていた。



なんで、なんでこんな事になっている。




この状況を理解しようと必死に記憶を辿る。


確か…体を慣らすために中庭を散歩してはどうだとユアンさんに勧められて

馬鹿デッカいその敷地の広さに流石だなと思った事は覚えている。

それから部屋に戻ってきて、疲れたけれどベッドで休むほどではないと判断して

優に2、3人は座れるであろうソファーに身を沈めて、それから……




「こんな所でうたた寝してると風邪を引くぞ?」



優しく目を細められて、何故だか無性にこの状態でいる事に羞恥心がむくむくと主張しだす。



「ベッ、」
「べ?」
「ベッ、ド、に行くので、そっ、そのすみません!」



パニックになって、もはや自分は今何に対して謝罪したのかすら考える余裕もない。


勢いよく起き上がって、ソファーから降りようとすると
後ろから両脇に手を差し込まれた。


「こら、待て」
「わ…っ」
「急に動くな。危ないだろう?」


そのまま膝の上に乗せられて、背中がヴァンの胸にピッタリとくっついた。


「あの、も、何ともないですから…」
「駄目だ」


だから離してと言う前に

お腹に腕が巻き付いて、肩に顎を乗せられる。

首筋に当たる吐息が俺の身体を更に硬直させた。


激しくなる動悸に、呼吸まで間隔がみじかくなってきて
兎に角もうどうしたら良いのか分からなくて
思考は真っ白だった。
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