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320.『俺』から『私』
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あの頃、ヴァンといるのは嫌だった。
本来なら兄上がこの任を担うはずだったのに、なんで俺なんかを選んだんだって
恨んだ。
だから、せめて早く見限られようと
散々無礼な態度を取った。
『王子だからと無条件で仕えてくれる奴ばかりだと思うな』
『王子のくせに国の事を何も知らないとはどういう事だ』
『王子だからって甘やかすと思うな』
『王子のくせして、して良い事と悪い事の区別も付かないのか』
出来得る限りの悪態をついたつもりだった。
「けどアイツ…そんな態度を取れば取るほど懐いてきて
そんなアイツに俺もどんどん調子を崩されて、いつの間にか弟みたいに大切に思い始めてた」
段々とヴァンの隣にいるのが、アイツが作る環境が心地良くて
俺は『自分の居場所』を見つけてしまった。
兄上を差し置いて手に入れてしまった居場所を
いざとなったら手放す勇気はなくて、罪悪感と共にぬるま湯に浸かり続けた。
その結果がこれだ。
「…だから、せめて兄上が出来なかった事を、兄上がするべきだった事を俺がする。
例えそれが嘘のものであったとしても、そのためにしてきたあの人の努力を無かった事になんてしたくなかった…」
誓ったんだ。
あの何も知らない太陽を曇らせはしない。
例え罪悪感で押しつぶされようとも、あの人を裏切った自分は『友』であり続ける。
罰を受け続ける。
アイツを守るために『化け物』の言いなりにもなろう。
『化け物』を欺くために
自分自身じゃないものが信用されるのなら
聞き入れられるのなら
それを望まれているのなら
俺はそうなろう。
そのために
誰にも望まれない
必要とされない『俺』は要らない。
───兄上の声が響く。
『俺は、もうお前を弟だとは思えない』
『だって、俺はもう必要ないだろう?』
『お前は───俺の居場所を奪ったじゃないか』
そう
俺は奪った。
誰よりもソレを欲したあの人から
俺は奪った。
だから、この場所で俺は成らなきゃいけないんだ。
誰よりも、誰からも認められる完璧な。
『俺』は要らない。
『私』は『俺』を殺し続ける。
本来なら兄上がこの任を担うはずだったのに、なんで俺なんかを選んだんだって
恨んだ。
だから、せめて早く見限られようと
散々無礼な態度を取った。
『王子だからと無条件で仕えてくれる奴ばかりだと思うな』
『王子のくせに国の事を何も知らないとはどういう事だ』
『王子だからって甘やかすと思うな』
『王子のくせして、して良い事と悪い事の区別も付かないのか』
出来得る限りの悪態をついたつもりだった。
「けどアイツ…そんな態度を取れば取るほど懐いてきて
そんなアイツに俺もどんどん調子を崩されて、いつの間にか弟みたいに大切に思い始めてた」
段々とヴァンの隣にいるのが、アイツが作る環境が心地良くて
俺は『自分の居場所』を見つけてしまった。
兄上を差し置いて手に入れてしまった居場所を
いざとなったら手放す勇気はなくて、罪悪感と共にぬるま湯に浸かり続けた。
その結果がこれだ。
「…だから、せめて兄上が出来なかった事を、兄上がするべきだった事を俺がする。
例えそれが嘘のものであったとしても、そのためにしてきたあの人の努力を無かった事になんてしたくなかった…」
誓ったんだ。
あの何も知らない太陽を曇らせはしない。
例え罪悪感で押しつぶされようとも、あの人を裏切った自分は『友』であり続ける。
罰を受け続ける。
アイツを守るために『化け物』の言いなりにもなろう。
『化け物』を欺くために
自分自身じゃないものが信用されるのなら
聞き入れられるのなら
それを望まれているのなら
俺はそうなろう。
そのために
誰にも望まれない
必要とされない『俺』は要らない。
───兄上の声が響く。
『俺は、もうお前を弟だとは思えない』
『だって、俺はもう必要ないだろう?』
『お前は───俺の居場所を奪ったじゃないか』
そう
俺は奪った。
誰よりもソレを欲したあの人から
俺は奪った。
だから、この場所で俺は成らなきゃいけないんだ。
誰よりも、誰からも認められる完璧な。
『俺』は要らない。
『私』は『俺』を殺し続ける。
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