炎のように

225.重なる

その日から４日経ったが、アルは眠り続けていた。

サラリと柔らかい触り心地の良いアルの髪をすく。
まだまだ血色が良いとは言えないが、それでも運び込まれたあの日より赤みは戻ってきていた。

けれど、一向に目を覚ます素振りを見せない様子に
このまま目覚めないのではと
そんな考えばかりが浮かんできてしまう。

「………ﾊｱ…………う……」
「！」

考えたくもない不吉な思考に落ちそうになった時、不意にアルのうなされたような声が聞こえた。
その表情を見れば、眉を寄せて、重い息を苦しそうに吐き出していた。

「…うぅ…い…やだ……ﾊｱ…やめ…て……ﾊｱ…」


ｶﾞﾀ…ｶﾞﾀｶﾞﾀｶﾞﾀ!!!!


なんだ！？


突然部屋中にある物が音を立てて揺れ始めた。
その揺れは段々と激しさを増していき…

「うあ…ぁ…やだ…………やめろ！！！！！」

アルがそう叫んだ瞬間、部屋の中を暴風が吹き荒れた。

「うあﾞあﾞあﾞあﾞあﾞあﾞあﾞあﾞあﾞあﾞあﾞ！！！！！！！」

目を見開いて、断末魔のような叫び声に
更に風の強さは増していく。

「…っ、アル！落ち着け！アル！！」

アルの上に覆い被さって、飛び交う物から守りつつ、呼び掛けた。

「い…や…！はな…せ！やめ…！やだ…！！！」

酷く取り乱すアルを押さえようとした時だった。

「！　お前…」


眼が…


虚(うつ)ろに見開かれた両眼、それは左右の色が違っていた。
露わにされた左眼は、濃いアクアの瞳。


碧い…という事は水？
え？でもアルの能力は…

「やあ…！やだ…はなせ！！」

叫ぶアルの声にハッとし、兎に角今は落ち着かせなくてはと押さえつける腕に力を入れた。

「アル！俺だ！ヴァンだ！」

だが、いくら呼び掛けても、どんなに目の前にいると言っても
アルには聞こえていないようだった。

傷が開いてしまったようで、アルの身体に巻かれていた包帯には血がにじんでしまっている。


くそ…！どうしたらいいんだ！


「…あ…ぁ…ヴァン…どこ…？…ヴァン…」
「！」

涙に濡れた焦点の合わない目をさまよわせて、アルは
俺を呼んだ。

不安そうに俺を探すその様子に胸がギュウッと締め付けられた。

「ヴァン……んっ」


俺はその唇に、自身のそれを重ねた。