シスルの花束を

碧月 晶

文字の大きさ
上 下
58 / 62

58「後日談2」

しおりを挟む
リアムは渋々といった体で話し始め……たかと思えば、何故か

「Ugetsu, will you be a little further away?(雨月、君は少し離れた場所にいてくれないか?)」

と言い出した。

「え?」
「Please…(お願いだ…)」

切実なリアムの声に雨月は困ったようにオレを見る。

「…車の中で待ってろ」
「でも…」
「大丈夫だ」

雨月の頭を撫で、車のキーを渡す。

「…分かりました」

まだ何か言いたげな表情をしていたが、オレが頷いてみせると雨月はこちらを気にしながらも車の中へと入っていった。

「…ほらよ、お望み通りにしてやったぜ?」
「You──」
「つーかお前、本当は日本語分かってるだろ」
「! ……いつから気付いてた」
「んなもん最初からに決まってんだろ」

こいつが開口一番にオレに英語で話しかけてきた時に雨月が終始不思議そうな顔をしてたし、確信を持ったのはストーカーのくだりの時だな。単語が単語なだけに思わず反応してしまったようだったが、あれでは日本語が分かりますと示したも同じ事だ。

「…お前、嫌な奴だ」
「目聡いと言え。それに、お前にだけは言われたくないね。このストーカー野郎」
「だからっ、俺はストーカーじゃない!」
「ハッ、ストーカーは皆そう答えるんだよ」
「~~~! やっぱりお前、嫌な奴だ!だからお前は雨月に似合わない!」
「はあ?馬鹿じゃねえの、お前」
「バ、バカとは何だ!」
「馬鹿も知らねえのかよ」
「それくらい知ってる!バカにするな!」
「あーそうかよ。それはそれは、よくお勉強してる事で。不純な動機でするお勉強はさぞかし身が入ったようだな?」
「…フジュンなドウキ?」

ああ、これは知らないのか。

…まあいい。この子供じみたやり取りにも飽きてきた所だ。そろそろ本題に入らせて貰おう。

「お前、雨月の事が好きなんだろ」
「!! な、ななな何を言って…!」

…動揺し過ぎだろ

その馬鹿正直な反応に、思わず溜め息が出る。

「じゃあ何か?お前は好きでも何でもない奴の行動を把握して、挙句の果てに付き合う相手にまで口出しすんのかよ?」
「それは……で、でもっ、俺は雨月の親友で──」
「There is also courtesy to close friends.(親しき仲にも礼儀あり)。って言葉知らねえのかよ」

そう言うと、リアムは黙った。

「分かったか。お前のそれは度を越してんだよ。いい加減自覚しねえとあいつに嫌われんぞ」
「それは……いやだ」

落ち込んだ犬のようにシュンとするリアム。どうやら自分のやっている事が行き過ぎているという自覚はあったらしい。

「…お前は、ズルい。地位も、名声も、全部持ってる。俺の方が先に好きだったのに、お前が攫っていった…っ」

ぼろりとリアムの青い眼から大粒の涙が零れる。

「ズルいのはお前の方だろ」

それにぎょっとはしたが、ここでオレがうろたえる訳にはいかない。オレはオレが言うべき事を言う。

「本当に好きだったのならオレより先に告白でも何でもしてれば良かっただろうが。出来なかった事をオレのせいにすんな」
「…っ、お前には俺の気持ちなんて分からない!」
「ああ分からねえよ。オレをおとしめて自分を良く見せようとしてた奴の気持ちなんて分かりたくもない」

そう、こいつはわざとオレに英語で話し掛けてきたのだ。オレが英語も分からない話せない馬鹿だと。大方、雨月に通訳して貰わないと話についていけない状況でも作りたかったのだろう。

「…そうだ。俺はお前が許せなかった。雨月の嬉しそうな笑顔も、悲しそうな顔も、全部お前のためだ」
「………」
「本当は分かってる。今更こんな事をしても無駄だって」
「………」
「済まなかった」

リアムが頭を下げる。…こうして憎く思っていた奴にも悪いと思えば素直に謝れるあたり、根は悪い奴ではないのだろう。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

総受けルート確定のBLゲーの主人公に転生してしまったんだけど、ここからソロエンドを迎えるにはどうすればいい?

寺一(テライチ)
BL
──妹よ。にいちゃんは、これから五人の男に抱かれるかもしれません。 ユズイはシスコン気味なことを除けばごくふつうの男子高校生。 ある日、熱をだした妹にかわって彼女が予約したゲームを店まで取りにいくことに。 その帰り道、ユズイは階段から足を踏みはずして命を落としてしまう。 そこに現れた女神さまは「あなたはこんなにはやく死ぬはずではなかった、お詫びに好きな条件で転生させてあげます」と言う。 それに「チート転生がしてみたい」と答えるユズイ。 女神さまは喜んで願いを叶えてくれた……ただしBLゲーの世界で。 BLゲーでのチート。それはとにかく攻略対象の好感度がバグレベルで上がっていくということ。 このままではなにもしなくても総受けルートが確定してしまう! 男にモテても仕方ないとユズイはソロエンドを目指すが、チートを望んだ代償は大きくて……!? 溺愛&執着されまくりの学園ラブコメです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

Estrella

碧月 晶
BL
強面×色素薄い系 『Twinkle twinkle little star.How I wonder what you are? ────きらきらきらめく小さな星よ。君は一体何ものなの?』 それは、ある日の出来事 俺はそれを目撃した。 「ソレが大丈夫かって聞いてんだよ!」 「あー、…………多分?」 「いや絶対大丈夫じゃねぇだろソレ!!」 「アハハハ、大丈夫大丈夫~」 「笑い事じゃねぇから!」 ソイツは柔らかくて、黒くて、でも白々しくて 変な奴だった。 「お前の目的は、何だったんだよ」 お前の心はどこにあるんだ───。 ─────────── ※Estrella→読み:『エストレージャ』(スペイン語で『星』を意味する言葉)。 ※『*』は(人物・時系列等の)視点が切り替わります。 ※BLove様でも掲載中の作品です。 ※最初の方は凄くふざけてますが、徐々に真面目にシリアス(?)にさせていきます。 ※表紙絵は友人様作です。 ※感想、質問大歓迎です!!

旦那様と僕・番外編

三冬月マヨ
BL
『旦那様と僕』の番外編。 基本的にぽかぽか。

放課後教室

Kokonuca.
BL
ある放課後の教室で彼に起こった凶事からすべて始まる

異世界ぼっち暮らし(神様と一緒!!)

藤雪たすく
BL
愛してくれない家族から旅立ち、希望に満ちた一人暮らしが始まるはずが……異世界で一人暮らしが始まった!? 手違いで人の命を巻き込む神様なんて信じません!!俺が信じる神様はこの世にただ一人……俺の推しは神様です!!

転生悪役令息、雌落ち回避で溺愛地獄!?義兄がラスボスです!

めがねあざらし
BL
人気BLゲーム『ノエル』の悪役令息リアムに転生した俺。 ゲームの中では「雌落ちエンド」しか用意されていない絶望的な未来が待っている。 兄の過剰な溺愛をかわしながらフラグを回避しようと奮闘する俺だが、いつしか兄の目に奇妙な影が──。 義兄の溺愛が執着へと変わり、ついには「ラスボス化」!? このままじゃゲームオーバー確定!?俺は義兄を救い、ハッピーエンドを迎えられるのか……。 ※タイトル変更(2024/11/27)

『これで最後だから』と、抱きしめた腕の中で泣いていた

和泉奏
BL
「…俺も、愛しています」と返した従者の表情は、泣きそうなのに綺麗で。 皇太子×従者

処理中です...