シスルの花束を

碧月 晶

文字の大きさ
上 下
53 / 62

53 side雨月

しおりを挟む
総会が終わり、おれは一人縁側でぼうっと満開に咲き誇る桜の庭園を眺めていた。

「雨月」
「父さん…」

おれの隣りに座ると、父さんも同じように庭に視線を向けた。

「…何か悩んでる事があるんじゃないのか?」
「え?」
「俺も、昔何か悩み事がある度にここからよく庭を眺めてたよ」

知らず父さんと同じ行動を取っていた事に嬉しさを覚える。

「…もしかして『三門くん』とやらが関係してるのか?」
「っ、なんで、」
「あの時、少しだけお前と裕太郎さんが話しているのが聞こえてな。それで?彼に応えてやらないのか?」
「…反対しないんですか?」
「どうして?」
「だって…おれと三門は…」
「男同士だから?」
「………」
「別に良いんじゃないか?俺は気にしないよ。…でも、今悩んでるのはそういう事じゃないんじゃないか?」
「!」

心の内を言い当てられ、思わず父さんを見る。

「…お前は本当に俺によく似ているんだな」
「え?」
「顔もだけど、悩み方まで似るものなんだな」
「?」

どういう意味だろう?

首を傾げるおれに、父さんは笑ってみせた。

「父さんはな、お前に後悔だけはしてほしくないんだ」
「………」
「俺は、お前たちに何一つしてやれなかった。大事な時に傍にいてやれなかった。この後悔はこの先一生消えないだろう。…でも、お前は違う。まだ間に合う」

彼もお前も生きているのだから、と。

「さて、そろそろ交代の時間かな」
「?」

交代?

一体何の事だと立ち上がった父さんを見上げると、父さんはにこりと笑っておれの頭を撫でた。
それと同時に襖が開いて、

「───!」

予想だにしていなかったその人物の登場に、おれは目を見開く。

「それじゃあまた後で」
「え、父さ──」

引き止める間もなく、父さんは部屋を出て行ってしまった。

「………」
「………」

二人きりの空間に沈黙が落ちる。

何か言わなければと思うのに、何て言ったらいいのか分からない。

「…はあ」

そんなおれに痺れを切らしたのか、その人──三門は一つ大きな溜め息を吐いた。

「言いたい事があんならはっきり言えっつったろ」

そう言うと、三門はおれの隣りに腰を下ろした。

「…どうして、」

三門がここにいるのか。

「お前の伯父から連絡があったんだよ。今日この時間にここに来るようにってな」
「え…」

裕太郎さんが…?

いつの間に連絡先を交換していたのだろうと疑問に思ったが、そういえば裕太郎さんが退院する前日に三門が訪ねてきたと言っていた事を思い出す。恐らくその時にしたのだろう。

「で?お前は何をそんなに悩んでる訳?」

言外に告白の返事の事を言っているのだと分かり、思わず顔を逸らす。

「…君は、太陽のような人です。だからこそ、一点も陰りがあってはいけないんです」
「……どういう意味だよ」

問われ、唇をぎゅっと引き結ぶ。

「おれも、君の事が好きです」
「!!」
「でも、おれは君のかせにはなりたくない。君はきっと今よりも凄い人になる。その時、おれが傍にいたら邪魔になるだけです」

だから、おれは君に相応しくない。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

フルチン魔王と雄っぱい勇者

ミクリ21
BL
フルチンの魔王と、雄っぱいが素晴らしい勇者の話。

ある少年の体調不良について

雨水林檎
BL
皆に好かれるいつもにこやかな少年新島陽(にいじまはる)と幼馴染で親友の薬師寺優巳(やくしじまさみ)。高校に入学してしばらく陽は風邪をひいたことをきっかけにひどく体調を崩して行く……。 BLもしくはブロマンス小説。 体調不良描写があります。

エリート上司に完全に落とされるまで

琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。 彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。 そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。 社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。

ハンターがマッサージ?で堕とされちゃう話

あずき
BL
【登場人物】ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ハンター ライト(17) ???? アル(20) ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 後半のキャラ崩壊は許してください;;

処理中です...