シスルの花束を

碧月 晶

文字の大きさ
上 下
52 / 62

52 side雨月

しおりを挟む
総会が始まる2時間ほど前、雨月は宗一郎の部屋に訪れていた。

「よく来たな。さあ、ここへ座りなさい」
「はい」

祖父の部屋は南向きの日当たりの良い和室で、縁側の向こうには見事な枯山水が望めた。

「写真は届いたか?」
「はい、ありがとうございました」

ふと、棚の上に視線がいく。そこには、おれの小さい頃の写真が丁寧に写真立てに入れて飾られていて

「…お前は本当に理一郎によく似ているな」

おれの視線に気付いた祖父も懐かしむようにそう言って写真を見る。

「あの」
「何だ?」
「実は、貴方に会わせたい人がいるんです」
「わしに?」
「はい」

ちょうどタイミングよく聞こえてきた足音に、おれは襖の向こうにいる人物に入るように声を掛けた。

「失礼します」

襖を開け、現れた裕太郎さんに祖父は目をぱちくりとさせる。

「君は確か、彩子さんの…」
「お初にお目にかかります」

ぺこりと一礼する裕太郎さんに、会わせたい人というのはこの人か?と問うようにこちらを見る祖父におれは苦笑して否定した。

ならば一体誰なのだと今度は裕太郎さんの方を見やる祖父を横目に、裕太郎さんは未だ廊下にいる人物に入るように促した。

「!!」

漸く姿を現したその人物を見るなり、祖父の眼が驚きに見開かれていく。

「り、理一郎…なのか?」
「…久しぶり、父さん」

よろよろと近付き、宗一郎は理一郎の顔に触れる。まるでここにいる事を確かめるように。

「お前、今までどこにいたんだ…!死んだと聞かされた時は、わしは…わしは…っ」
「…ごめん。心配かけさせて」

それから、おれは父さんを見つけた経緯を、父さんは自分の身に起きた事全てを祖父に話した。

真実を知った祖父は暫し考え込んでいたが

「…お前はこれからどうするんだ」

祖父からの質問に父さんは背筋を伸ばして答える。

「冷泉院を継ぐ」
「……いいのか」
「ああ、俺はもう逃げない」

祖父の鋭い視線が父さんを射抜く。それでも、父さんが目を逸らす事はなかった。

「…分かった。だが、認められるかはお前次第だ。その覚悟を示してみせなさい」
「! …ありがとう、父さん」

こうして、父さんは無事祖父と再会を果たした。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

隠れSubは大好きなDomに跪きたい

みー
BL
⚠️Dom/Subユニバース 一部オリジナル表現があります。 ハイランクDom×ハイランクSub

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

熱中症

こじらせた処女
BL
会社で熱中症になってしまった木野瀬 遼(きのせ りょう)(26)は、同居人で恋人でもある八瀬希一(やせ きいち)(29)に迎えに来てもらおうと電話するが…?

主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。

小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。 そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。 先輩×後輩 攻略キャラ×当て馬キャラ 総受けではありません。 嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。 ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。 だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。 え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。 でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!! ……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。 本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。 こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。

【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします

  *  
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!? しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが吃驚して憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です! めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので! 本編完結しました! 時々おまけを更新しています。

記憶を失くした代わりに攻略対象の婚約者だったことを思い出しました

冬野月子
恋愛
ある日目覚めると記憶をなくしていた伯爵令嬢のアレクシア。 家族の事も思い出せず、けれどアレクシアではない別の人物らしき記憶がうっすらと残っている。 過保護な弟と仲が悪かったはずの婚約者に大事にされながら、やがて戻った学園である少女と出会い、ここが前世で遊んでいた「乙女ゲーム」の世界だと思い出し、自分は攻略対象の婚約者でありながらゲームにはほとんど出てこないモブだと知る。 関係のないはずのゲームとの関わり、そして自身への疑問。 記憶と共に隠された真実とは——— ※小説家になろうでも投稿しています。

麗しの眠り姫は義兄の腕で惰眠を貪る

黒木  鳴
BL
妖精のように愛らしく、深窓の姫君のように美しいセレナードのあだ名は「眠り姫」。学園祭で主役を演じたことが由来だが……皮肉にもそのあだ名はぴったりだった。公爵家の出と学年一位の学力、そしてなによりその美貌に周囲はいいように勘違いしているが、セレナードの中身はアホの子……もとい睡眠欲求高めの不思議ちゃん系(自由人なお子さま)。惰眠とおかしを貪りたいセレナードと、そんなセレナードが可愛くて仕方がない義兄のギルバート、なんやかんやで振り回される従兄のエリオットたちのお話し。完結しました!

処理中です...