シスルの花束を

碧月 晶

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50 side雨月

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「!!」

画面に表示された『三門』という二文字。

でも、おれはなかなか出る事が出来なくて。そうこうしているうちに、着信は切れてしまった。

「………」

何をやっているのだろう。せっかく三門がかけてきてくれたのに。
自己嫌悪に苛まれて、じわりと涙が滲む。けれど、

「っ!」

再び手の中で震え始めたスマートフォンを見れば、そこにはさっきと同じ名前が表示されていて。
短い間隔で切れては、また振動する。
それは電話の向こうで『早く出ろ』と言っているように感じられて、苛立っている三門の姿が容易に目に浮かんだ。

思わず、くすりと笑ってしまう。

「はい」
『遅ぇ』
「すみません」
『…なに笑ってんだよ』
「いえ、ちょっと。君は相変わらずだなと思って」
『はぁ?』

何を言っているんだと言いたげな声。久しぶりに聞く電話越しの彼の声に、胸が高鳴る。

『まあ、いい。それよりもお前に言いたい事がある』
「?」
『…待っててやるよ』

え…?

『だから、これだけは忘れるな。オレは何があろうとお前だけを…愛してる』
「…っ」
『じゃあな』
「みか、」

あっという間に切れてしまったそれを、おれは暫く呆然と見つめていた。


*****


夜。裕太郎さんとやってきた父さんを今度はおれの部屋に招き、話に花を咲かせる。

食事も終わり、食後の晩酌へと移った頃、おれは祖父から今朝届いた手紙の事を切り出した。

最初、父さんは散々放蕩した挙句行方不明になって今更見つかったって言っても迷惑をかけるだけではないかと祖父に無事を知らせるのを渋っていたが、おれが父さんと母さんの写真をずっと大事に持っていたのは祖父なのだと話すと、父さんはついには頷いてくれた。

そして、春頃に日本へ向かう事が決まった。


*****


「ぐぉー…」

酔っ払い、ソファーで眠ってしまった父さんに毛布をかける。

「理一郎さん、よっぽどお前と酒を飲めたのが嬉しかったんだな」
「おれも、父さんと色々話せて楽しかったです」
「…なあ、雨月」
「はい?」
「…三門くんとはもう会わないつもりなのか?」
「っ、」
「退院する前日に、三門くんが来たんだ。お前の事が好きだと言っていたよ」

! 三門が…?

「雨月、お前も三門くんの事が好きなんじゃないのかい?」
「おれは…」

三門の事を想うと、声を聞くと、胸の真ん中あたりがきゅうっとする。けれど…

「…まあ、お前が納得しているなら俺は何も言わないよ。でも、もし少しでもそうじゃないのなら後悔だけはしないようにしなさい」

後悔だけはしないように。それは裕太郎さんが昔から口癖のように言い続けている言葉。

聞き慣れた言葉。だけど、今回ばかりはその言葉は重く響いた。

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