シスルの花束を

碧月 晶

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雨月が渡仏とふつしてから、2週間が経った。

あれから直ぐオレの身の回りは裕太郎が言った通り騒がしくなって、お陰で雨月を見送りに空港に行く事は出来なかった。

「…チッ」

鳴らないスマートフォンを見ては意味もなく舌打ちを零して、かといって自分から連絡する勇気もない。

そんな日常が続いていたある日、オレは一本の電話を受けた。

『久しぶり、三門』

久しぶりに聞く、電話越しの声は思っていたよりも元気そうで。

「…急に何の用だよ、竜雅」
『はは、相変わらずつれないなぁ三門は』

事務所を辞めてから、竜雅はいわゆる自分探しの旅とやらにアメリカへ旅立った。

「…用がないなら切んぞ」

そんなこんなで今まで音沙汰なしだったが、まあ便りが無いのは良い便りとも言うしと特に気にしていなかった。

『待てって。…聞いたよ、父さんと母さんの事』
「………」
『まあお前の事だから心配とかしてないだろうけど、一応言っておく。俺は大丈夫だから』
「…そうかよ」

普通に答えたつもりだった。だが、竜雅は何かを感じ取ったらしい。

『…どうした?何かあったのか?』
「ない訳ねえだろ」

これだけ周囲に騒がれてんだから。

『いや、そういう意味じゃなくて。何か声がいつものお前らしくないっていうか…何か落ち込んでるみたいだったから』

…それは遠回しに『これくらいの騒々しさ、お前なら気にしないだろ?』って言ってんのか?

「…別に、何でもねえよ。ちょっと疲れてるだけだ」
『そうか?それにしても、お前でも疲れる事あるんだな。ちょっと意外だ』
「どういう意味だ」
『だって、俺、お前が疲れてる所なんて見た事ないからさ』

…そうだっただろうか

『だから、「疲れてる」って素直に俺に教えてくれた事が嬉しいよ』

それだけ気を許してくれてるみたいで、と。

『まあ、何があったか知らないけど、後悔だけはしないようにな。それじゃ、またな』

そう言って、通話は切れた。

…後悔だけはしないように、か

先ほど切れたばかりのスマートフォンを操作し、とある人物に電話をかける。

…癪だが、竜雅の言う通りだ。


オレはもう後悔はしたくない。


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