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しおりを挟む「奥様が──」
「そうじゃなくて。何で『ガソリン』だったんですか?普通ガソリンを少し抜いたくらいじゃ事故になる可能性は低いって分かりますよね」
起こせてもせいぜいガス欠程度だ、と。
確かに、普通の人が事故を起こそうと車に何か細工をすると考えた時、真っ先に浮かぶのはブレーキなどの車を動かす上で重要な働きを担っている箇所だろう。
だが、実際にゆりえさんがした事はガソリンを少量抜いた程度。
「それは…夫が言ったのよ。ガソリンがないと危ないからって。それで私──」
そこまで言って、ゆりえさんは何かに気が付いたように表情をはっとさせた。
「…そうよ、確かあの時夫は褒めてくれたわ。『よくやった』って。それで後は任せてくれって、私がやった事を隠してくれて…」
ゆりえさんの表情が段々と強張っていく。
つまり、通さんはゆりえさんにガソリンを抜くように仕向け、自分のせいで彩子さんが死んだと思い込ませる事で彼女に罪の意識を植え付けたのだ。
そして、自分のやった事を全てゆりえさんに擦り付けた上で白々しく庇ってみせる事で、彼女からの信頼と引け目を得た。
そうすれば、自分の言う事を聞く人形が手に入るのだから。
「そんな、私は今まで騙されていたの…?あの人に、ずっと利用されていたの…?」
「奥様…」
愕然と肩を落とすゆりえさんの姿に、雨月も戸惑っているようだった。
ずっとゆりえさんが犯人だと思っていたのだ。けれど、ここへ来て真犯人は通さんだと分かった。
二人の困惑と衝撃は計り知れないだろう。
「…なあ、ゆりえさん」
だからこそ、ここでオレが言わなければ。
「オレたちに協力してくれませんか」
「…え?」
その場にいる全員からの視線が集まる。
「オレはゆりえさんには恩がある。だから、あなたの間違いを正さなければと思っていました。それがオレの役目だと」
「三門…」
「でも、あなたは利用されていただけだった。あなたも雨月も18年間も苦しめられて…オレはそれが許せない。…あなたを苦しめた人間の──通さんの罪を暴く手伝いをして貰えませんか?」
ゆりえさんは、オレの眼を暫く見つめて大きく息を吸った。
「分かったわ」
「! それじゃあ、」
「ええ。だって、やられっぱなしは悔しいもの。性にも合わないし。あの人を私たちでコテンパンにしてやりましょう」
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「私に考えがあるの。聞いてくれるかしら?」
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