38 / 62
38 side雨月
しおりを挟む
一方その頃、雨月はゆりえの愛人たちと接触していた。
「じゃあ、新人ちゃんたちの歓迎を祝して、かんぱ~い!」
グラスを掲げ、酒を呷っていく愛人たち。その面々を酒を飲むふりをして、じっと観察する。
「じゃあ、まずは自己紹介から始めよっか。俺は栄」
乾杯の音頭をとっていた青年が名乗ると、他の面々もそれを皮切りに順に名乗り始める。
「ぼくは美弥」
「僕、詩!」
「オレは奏」
「ボクは出流だよ」
5人の青年たちが自己紹介を終えると、今度は新人たちの自己紹介となった。
今回、この歓迎会に招待された新人はおれを含めて3人。
ちなみに、おれがどうやってこの場に潜入したかというと、本当ならば今日来るはずだった青年に少し『良い話』を持ち掛けたのだ。
何でもおれと同じく風景カメラマンを目指しているらしく、それならばとおれが師と仰いでいる人を紹介した。見たところ才能はあるようだったし、あとは自分で何とかするだろう。
まあ、そんなこんなで、おれはこうして彼が座るはずだった席にいるという訳だ。
「はーい、自己紹介ありがとね。それじゃあ、この『サロン』に入るにあたっての注意事項を教えるからねー」
栄が手を叩き、注目を集めさせる。どうやら、この中では栄がリーダーのようだ。
「まず一つ目、俺たちはあくまでもゆりえさんの愛人。求められれば、どんな事でも応えなきゃいけない」
「…どんな事でも、ですか?」
「そうだよ。俺たちはゆりえさんに恩があるからね」
「そうそう。例えば、ライバル企業のお嬢様や奥様からゆりえさんが望む情報を取ってくるとかね」
「それで、旦那さんを社長にのし上げたんだもんね。やり手のキャリアウーマンって感じで、凄いよねぇ」
美弥と詩の言葉に、栄は賛同するようににこりと微笑んでみせる。
「で、二つ目はゆりえさんが俺たちに話したプライベートな事には何の関心も持たない事」
「? どうして持ってはいけないんですか?」
彼らは好き好んでゆりえの愛人をやっているくらいだ。ならば、情を交わす相手の事を少なからず知りたいと思うはずだ。
「うーん、どうする?あの話もしといた方が良いんじゃない?ねえ、奏」
「そうだね。ゆりえさん酔ったらよくその話するし」
詩に聞かれ、奏が首肯する。
…あの話?
何の事だろうと思い、栄を見る。彼は少し渋っていたようだったが、周りに説得され、とうとうその重い口を開いた。
「ここだけの話、ゆりえさんって酔ったらよく『彩子』さんって女の人の事を口にするんだよ」
───…!
その瞬間、心臓が脈打つ音がやけに近く聞こえた気がした。
「何だかよく分からないけど、裏切られたらしいよ」
「このお話する時のゆりえさん、ちょっと怖いけど…でも凄く悲しそうなんだよねぇ」
「確かに。じいやさんにも怒られるしね」
…じいや?
「じいやさんがいるんですか?」
「そうだよぉ。渋くて格好良いんだぁ」
「イケオジって感じだよね」
「…その女性の話をするとどうしてじいやさんが怒るんですか?」
「さあ、それは俺にも分かんないけど。前にじいやさんに『彩子』さんとは何があったのって聞いたら、この話題には触れないようにって怒られちゃったんだよね。だから君も気をつけて」
「…そうなんですね。分かりました」
そう頷いてみせると、5人は満足したように別の話題を話し始めた。
「ていうか、じいやさんって本当に格好良いよね」
大分酔いが回っているのか、あまり回っていない呂律で出流がそう切り出す。
「分かる!僕も一度でいいから、じいやさんに仕えて貰いたいっ」
「無理でしょ。あの人、忠誠心の塊みたいな人だよ?」
「ゆりえさんが嫁いでくる前からの付き合いらしいから…もう20年くらいになるのかな?」
「偶に見かけた時はラッキーだよねー」
その後も、話題を切り替えてはキャッキャッと盛り上がる空間に、おれは3時間ほど滞在したのだった。
「じゃあ、新人ちゃんたちの歓迎を祝して、かんぱ~い!」
グラスを掲げ、酒を呷っていく愛人たち。その面々を酒を飲むふりをして、じっと観察する。
「じゃあ、まずは自己紹介から始めよっか。俺は栄」
乾杯の音頭をとっていた青年が名乗ると、他の面々もそれを皮切りに順に名乗り始める。
「ぼくは美弥」
「僕、詩!」
「オレは奏」
「ボクは出流だよ」
5人の青年たちが自己紹介を終えると、今度は新人たちの自己紹介となった。
今回、この歓迎会に招待された新人はおれを含めて3人。
ちなみに、おれがどうやってこの場に潜入したかというと、本当ならば今日来るはずだった青年に少し『良い話』を持ち掛けたのだ。
何でもおれと同じく風景カメラマンを目指しているらしく、それならばとおれが師と仰いでいる人を紹介した。見たところ才能はあるようだったし、あとは自分で何とかするだろう。
まあ、そんなこんなで、おれはこうして彼が座るはずだった席にいるという訳だ。
「はーい、自己紹介ありがとね。それじゃあ、この『サロン』に入るにあたっての注意事項を教えるからねー」
栄が手を叩き、注目を集めさせる。どうやら、この中では栄がリーダーのようだ。
「まず一つ目、俺たちはあくまでもゆりえさんの愛人。求められれば、どんな事でも応えなきゃいけない」
「…どんな事でも、ですか?」
「そうだよ。俺たちはゆりえさんに恩があるからね」
「そうそう。例えば、ライバル企業のお嬢様や奥様からゆりえさんが望む情報を取ってくるとかね」
「それで、旦那さんを社長にのし上げたんだもんね。やり手のキャリアウーマンって感じで、凄いよねぇ」
美弥と詩の言葉に、栄は賛同するようににこりと微笑んでみせる。
「で、二つ目はゆりえさんが俺たちに話したプライベートな事には何の関心も持たない事」
「? どうして持ってはいけないんですか?」
彼らは好き好んでゆりえの愛人をやっているくらいだ。ならば、情を交わす相手の事を少なからず知りたいと思うはずだ。
「うーん、どうする?あの話もしといた方が良いんじゃない?ねえ、奏」
「そうだね。ゆりえさん酔ったらよくその話するし」
詩に聞かれ、奏が首肯する。
…あの話?
何の事だろうと思い、栄を見る。彼は少し渋っていたようだったが、周りに説得され、とうとうその重い口を開いた。
「ここだけの話、ゆりえさんって酔ったらよく『彩子』さんって女の人の事を口にするんだよ」
───…!
その瞬間、心臓が脈打つ音がやけに近く聞こえた気がした。
「何だかよく分からないけど、裏切られたらしいよ」
「このお話する時のゆりえさん、ちょっと怖いけど…でも凄く悲しそうなんだよねぇ」
「確かに。じいやさんにも怒られるしね」
…じいや?
「じいやさんがいるんですか?」
「そうだよぉ。渋くて格好良いんだぁ」
「イケオジって感じだよね」
「…その女性の話をするとどうしてじいやさんが怒るんですか?」
「さあ、それは俺にも分かんないけど。前にじいやさんに『彩子』さんとは何があったのって聞いたら、この話題には触れないようにって怒られちゃったんだよね。だから君も気をつけて」
「…そうなんですね。分かりました」
そう頷いてみせると、5人は満足したように別の話題を話し始めた。
「ていうか、じいやさんって本当に格好良いよね」
大分酔いが回っているのか、あまり回っていない呂律で出流がそう切り出す。
「分かる!僕も一度でいいから、じいやさんに仕えて貰いたいっ」
「無理でしょ。あの人、忠誠心の塊みたいな人だよ?」
「ゆりえさんが嫁いでくる前からの付き合いらしいから…もう20年くらいになるのかな?」
「偶に見かけた時はラッキーだよねー」
その後も、話題を切り替えてはキャッキャッと盛り上がる空間に、おれは3時間ほど滞在したのだった。
0
お気に入りに追加
37
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。


ある少年の体調不良について
雨水林檎
BL
皆に好かれるいつもにこやかな少年新島陽(にいじまはる)と幼馴染で親友の薬師寺優巳(やくしじまさみ)。高校に入学してしばらく陽は風邪をひいたことをきっかけにひどく体調を崩して行く……。
BLもしくはブロマンス小説。
体調不良描写があります。
エリート上司に完全に落とされるまで
琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。
彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。
そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。
社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。
ハンターがマッサージ?で堕とされちゃう話
あずき
BL
【登場人物】ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ハンター ライト(17)
???? アル(20)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
後半のキャラ崩壊は許してください;;
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる