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しおりを挟む「な、何を言って──」
「あ?聞こえなかったのかよ、お前が好きだっつってんだよ」
「…っ、わ、訳が分かりません。いきなりそんな事言われたって信じられる訳──」
「なら、どうすりゃ信じる」
再び顔を近付けると、雨月が一歩後退る。
「逃げんな」
「え、わ…っ」
掴んでいた腕をぐいっと引き、バランスを崩した雨月の体を抱きとめる。そのまま背中に腕を回し、逃げられないように閉じ込めた。
「放し──」
「放す訳ねえだろ」
暴れる雨月を押さえ込むと、ふわりと香るベルガモットの香り。
「なんで、」
「あ?放したら逃げるだろ、お前」
「そうじゃなくて…っ」
「何だよ」
「…すきって」
…ああ。そういえば、まだ理由を言ってなかったか。
「んなもんオレにも分からねえよ。気付いたらそうなってた」
確信したのは、多分雨月と伯父が一緒にいるのを見たあの時だろう。
「…意味が、分かりません」
「は、だろうな」
オレにもよく分かっていないのだから。
「おれは、君を利用しようとしていたんですよ」
「じゃあ教えろよ」
「…え?」
「お前がしようとしている事、感じた事、全部教えろ」
「…知って、どうするんですか」
「んなもん聞いてから決める」
「そんなの、勝手過ぎます」
「は、今更だな」
このオレを誰だと思ってんだ。
「…そういえば、君はそんな人でしたね」
オレの服を掴んでいた雨月の手がぎゅっと握られる。
「…分かりました。お話します」
君にはその権利があるのだから、と。
雨月はオレの肩に顔を埋めて、ぽつりぽつりと話し始めた。
*****
「待って下さ…」
「待たねえ」
「んっ」
ベッドの上で抵抗する腕を掴み、雨月の口を己のそれで塞ぐ。歯列を割り、深く舌を絡ませながら、服を脱がしていく。
「み、かど、なんで」
何故急に自分を抱こうとしているのか、オレの行動が分からずにいる雨月は先程からずっと「なんで」と繰り返している。
別に何も不思議な事じゃない。理由は雨月から『全て』を聞いたから。
「怒ってるんですか…?」
雨月の言葉にぴたりとオレの動きが止まる。
「あ?何言ってんだお前」
「? 違うんですか」
当たり前だろと言いかけて、ふと思い出す。そういえば、抱く事で頭がいっぱいで何も説明していなかった。
「…あー、悪い」
「?」
「別に怒ってねえよ。ただ…」
「ただ…?」
改めて口にしようとするとこっ恥ずかしいが、誤解されたままなのは嫌なので意を決して口を開く。
「お前に好きになって貰いてえって、思ったんだよ」
「…え?」
雨月が目をぱちくりと瞬く。
「な、何で…おれの話聞いてましたか?」
「ああ」
「おれと君は……その、」
被害者と加害者の遺族という関係だと言いたいのだろう。だが、
「それがどうした」
「!」
「確かにオレとお前は世間的に見ればそういう関係だ。だがなぁ、だからってお前に惚れちゃいけねえ理由にはならねえだろ」
「…っ、でも、」
「お前、オレの事いまはどう思ってんだよ」
「どうって…」
「前までならオレの事を復讐のための道具としてしか思ってなかっただろうが、今は違うって分かってんだろ?」
復讐のためなら内心嫌だと思っていてもオレに抱かれるのも苦じゃないと思っていたのかもしれないが…その復讐にオレを関係ないと位置付けた今なら、雨月の性格上オレへの評価が何かしら変化していてもおかしくないはず。
「…君の事は、その、今は」
「ああ、罪悪感とかは抜きにして考えろよ」
「えっ」
念のため注意しておくと、図星だったのか雨月が珍しく目を泳がせる。
そして、考えに考えぬいた様子で雨月は口を開いた。
「…よく、分かりません」
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