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しおりを挟む「…はあ」
あれから、18年前の事故についてオレなりに色々調べてみた。
まず、事故について当時の新聞やニュースを見てみた。
事故は18年前の11月1日に起きている。横断歩道を渡る親子──オレと母親を轢いた車を運転していたのは女性──名雪彩子で、酒を飲んでいたと書かれていた。
…ここまではオレも知っている事だ。
次いで、『名雪彩子』について調べてみた。
すると、彼女は義父が経営する会社に勤めていた事あったと分かった。
…そして、調べていく内に思い出した事があった。
それは、事故の時の記憶。
あの日、オレは幼稚園からの帰りだった。
その日あった事を母親に話しながら帰る、いつもの光景。明日も続くと信じていた。
けれど、それは突っ込んできた車によって壊された。
何度思い出しても、あの時の恐怖と戸惑いは忘れられない。
…だけど、その中に手掛かりはあった。
────『…避けて!ブレーキが…!』
そう、あの時オレは聞いていたのだ。『名雪彩子』の声を。
どうして今の今まで忘れていたのだろう。
…いや、理由は分かっている。
オレはあの事故と向き合う事から目を背けてきた。明日も変わらず続くと信じて疑わなかった日常を奪われたという現実に耐えられなかったから。
記憶に、蓋をした。
「は、我ながらガキすぎる」
だが、いい加減向き合わなければ。母親にも、あいつにも顔向けできない。
「…よし、行くか」
これから雨月に会いに行く。
…正直、あんな風に喧嘩別れしてしまった手前、会い辛いと思うところはある。
だが、この事実をあいつに報せなればとも思う。
…いや、そんなのは口実だな。
本心は多分、あの時の事を謝りたいんだ。
お互いに事情を知らなかったとはいえ、こんなことで喧嘩したまま別れるのは気分が悪い。
あいつに謝ろう。それでも許して貰えなかったら……まあ、その時はその時だ。
*****
雨月の居場所は今も定かには分かっていない。
けれど、マネージャーが雨月らしき人物を見かけたという場所を中心に、その近辺にあるマンションやホテルにいくつか当たりをつけ、暇を見つけてはその場所に赴き、雨月を探した。
そして、今日向かう場所は当たりをつけたマンションの最後の一つ。いるかどうか保証はない。
いる事を祈っていると
「───…!」
そのマンションにもう直ぐで着くという時、その姿はあっさりと見つかった。
「雨月──」
呼ぼうとして、その隣に誰かいる事に気が付く。
…誰だ?あの男
雨月もそれなりにタッパがある方だが、隣りを歩くその男はそれ以上に高かった。下手したらオレよりもあるかもしれない。
「!」
様子を窺っていると、隣りの男が雨月の頭に手を置いたのが見えた。
雨月も嫌がる様子はなく、されるがままに撫でられている。…オレだってした事ないぞ、あんな事。
そのあまりにも仲睦まじい様子に「まさか…」ととある考えが過ぎる。
恋人…じゃないだろうな?
過ぎった己の考えに無意識に拳を強く握った、その時だった。
───キキイィィ…!!
「…え?」
目の前で、一台の車が二人に突っ込んでいった。
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