シスルの花束を

碧月 晶

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27 sideゆりえ

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私が冷泉院に嫁入りする事が決まったのは、女学校を卒業して直ぐの事だった。
夫──とおるさんとは所謂お見合い結婚で、当時の私は幸せになれると信じて疑いもしなかった。

けれど、夫は超が付く女好きで、度重なる浮気に次第に夫婦仲は冷めていった。

そして、夫とはビジネスパートナーとしてだけの関係になっていた頃、彩子と再会した。

聞けば、彩子も結婚しているという。幸せそうな顔で自分の夫について語る彩子が羨ましかった。

…そうだ。この時からだ。私の人生が狂い始めたのは。

「ちょっと、あなた!」
「何だ騒々しい。もう少し静かにできないのか」

その言い方に思う所がない訳ではないが、今はそれどころではない。

目線で秘書をさがらせ、社長室には私と夫だけになる。

「…今日、彩子のお兄さんと会ってきたの」
「ほう…それで?」
「彼、18年前の事に何か感づいてるみたいだったわ」

決定的な言い方はしなかったが、私の事を怪しんでいたのは確かだ。

「何だ、そんな事か」
「そんな事って…!」

目を見開く私を夫は鼻で一蹴し、「まあ落ち着けよ」と言った。

「焦る必要はないさ。そいつが今更何を言ったって信じる奴なんていないんだから」
「でも、」
「でもまあ、それでも不安だって言うなら…」

夫はニヤリと口角を上げ、

「君に任せるよ」

私を指差した。

「……分かったわ」

そう答えると、夫は満足そうに笑った。

「ああ。後は僕がするから、安心するといい」
「…そうね」

黒い何かが私の心を塗りつぶしていく。もう後戻りは出来ないのだと、囁くように。

…ああ、そういえば

扉に手をかけ、ふと思い出す。

「あの子の子供に会ったわよ」
「…何?」
「あの時より随分と大きくなっていたわ」

憎い憎い、あの子の子供。
私を裏切った、あの女の子供。


────許さない。


******


「…子供、だと?」

ゆりえが出て行った後、通はひとちる。

「…まさか、あいつの?」

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