26 / 62
26 side雨月
しおりを挟む
その日、おれは裕太郎さんに謝りたくて、裕太郎さんの家の前に向かっていた。
けれど、途中通りかかった某高級ホテルの前で、裕太郎さんが入っていくのを見かけた。
この時は仕事かと思い、暫くエントランスで待っていたのだが、幾ら待っても現れない裕太郎さんに痺れを切らし、探しに行く事にした。
裕太郎さんの姿は、エレベーターで昇ったところにある眺めのいいラウンジで見つける事ができた。
後で思えば、迂闊だったと思う。裕太郎さんが誰かと話していると気付いたのは、呼び掛けて、近付いた時だった。
死角になっていた柱の陰から現れたのは、冷泉院ゆりえの姿で。
どうして彼女と伯父さんが会っているのか。理由も分からないまま、おれは…いやおれたちはラウンジを後にした。
「…それで、どうしてあの人と会ってたの」
家に帰ってくるなり、そう問い詰めるおれに裕太郎さんは少し迷った素振りを見せたが
「雨月、俺はあの事故の事を独自に調べていたんだ」
ゆっくりと口を開いた。
「それで思ったんだ。彩子は酒を『飲んだ』んじゃなく『飲まされた』んじゃないかって」
「! それって…」
もしそうだったとしたら、あれは単なる事故ではなくなる。
「だが、確証がない。だから14年前、俺はゆりえちゃんに彩子の身の回りで何かトラブルが無かったか知らないかと話を聞きに行ったんだ。…だが、返ってきた答えは望んでいたものじゃなかった。寧ろ、あの事故は起こるべくして起こったような口ぶりだった」
「………」
「…後悔したよ。あの時もっと怪しんでいれば…彩子の日記をもっと早くに見つけていればって」
「…それは、おれも同じです」
そう言うと、裕太郎さんがそれまで俯かせていた顔を上げる。
「お前に言うべきかずっと迷っていたが…お前には知る権利がある。義務がある。だから話そうと思う」
その顔は何かを決意したような表情だった。
「さっき彩子が『飲まされた』可能性があると言ったが、もう一つ考えていた事がある」
「もう一つ?」
首を傾げるおれに裕太郎さんは言った。
「『酒を飲んでいた』という情報事態が嘘だったんじゃないかって」
「───え?」
耳を疑うおれに、裕太郎さんは更に話を続ける。
「つまり、だ。本当は飲酒運転なんかじゃなくて、もっと別の原因があった。でも、誰かが何らかの目的で『飲酒』だとでっち上げ、情報を操作した」
「で、でもそれじゃあ警察も…」
「ああ。グルだったか、誰かが手を回したかのどちらかだろうな」
「そんな…」
そんな事があり得るのか。
そうは思うものの、18年前、母さんの不審な点を訴えても警察もメディアも誰も信じてくれなかった事を思い出す。
確かに、そう考えれば辻褄が合う。
…待てよ?警察に圧力をかけられて、世論を操作できる程の『誰か』。そして、母さんが最後に会っていたと思しき『ゆりえ』の存在。
「まさか…」
裕太郎さんがこくりと頷く。
「俺はその『誰か』がゆりえちゃんだったんじゃないかと思ってる」
けれど、途中通りかかった某高級ホテルの前で、裕太郎さんが入っていくのを見かけた。
この時は仕事かと思い、暫くエントランスで待っていたのだが、幾ら待っても現れない裕太郎さんに痺れを切らし、探しに行く事にした。
裕太郎さんの姿は、エレベーターで昇ったところにある眺めのいいラウンジで見つける事ができた。
後で思えば、迂闊だったと思う。裕太郎さんが誰かと話していると気付いたのは、呼び掛けて、近付いた時だった。
死角になっていた柱の陰から現れたのは、冷泉院ゆりえの姿で。
どうして彼女と伯父さんが会っているのか。理由も分からないまま、おれは…いやおれたちはラウンジを後にした。
「…それで、どうしてあの人と会ってたの」
家に帰ってくるなり、そう問い詰めるおれに裕太郎さんは少し迷った素振りを見せたが
「雨月、俺はあの事故の事を独自に調べていたんだ」
ゆっくりと口を開いた。
「それで思ったんだ。彩子は酒を『飲んだ』んじゃなく『飲まされた』んじゃないかって」
「! それって…」
もしそうだったとしたら、あれは単なる事故ではなくなる。
「だが、確証がない。だから14年前、俺はゆりえちゃんに彩子の身の回りで何かトラブルが無かったか知らないかと話を聞きに行ったんだ。…だが、返ってきた答えは望んでいたものじゃなかった。寧ろ、あの事故は起こるべくして起こったような口ぶりだった」
「………」
「…後悔したよ。あの時もっと怪しんでいれば…彩子の日記をもっと早くに見つけていればって」
「…それは、おれも同じです」
そう言うと、裕太郎さんがそれまで俯かせていた顔を上げる。
「お前に言うべきかずっと迷っていたが…お前には知る権利がある。義務がある。だから話そうと思う」
その顔は何かを決意したような表情だった。
「さっき彩子が『飲まされた』可能性があると言ったが、もう一つ考えていた事がある」
「もう一つ?」
首を傾げるおれに裕太郎さんは言った。
「『酒を飲んでいた』という情報事態が嘘だったんじゃないかって」
「───え?」
耳を疑うおれに、裕太郎さんは更に話を続ける。
「つまり、だ。本当は飲酒運転なんかじゃなくて、もっと別の原因があった。でも、誰かが何らかの目的で『飲酒』だとでっち上げ、情報を操作した」
「で、でもそれじゃあ警察も…」
「ああ。グルだったか、誰かが手を回したかのどちらかだろうな」
「そんな…」
そんな事があり得るのか。
そうは思うものの、18年前、母さんの不審な点を訴えても警察もメディアも誰も信じてくれなかった事を思い出す。
確かに、そう考えれば辻褄が合う。
…待てよ?警察に圧力をかけられて、世論を操作できる程の『誰か』。そして、母さんが最後に会っていたと思しき『ゆりえ』の存在。
「まさか…」
裕太郎さんがこくりと頷く。
「俺はその『誰か』がゆりえちゃんだったんじゃないかと思ってる」
0
お気に入りに追加
37
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。


ある少年の体調不良について
雨水林檎
BL
皆に好かれるいつもにこやかな少年新島陽(にいじまはる)と幼馴染で親友の薬師寺優巳(やくしじまさみ)。高校に入学してしばらく陽は風邪をひいたことをきっかけにひどく体調を崩して行く……。
BLもしくはブロマンス小説。
体調不良描写があります。
エリート上司に完全に落とされるまで
琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。
彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。
そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。
社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。
ハンターがマッサージ?で堕とされちゃう話
あずき
BL
【登場人物】ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ハンター ライト(17)
???? アル(20)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
後半のキャラ崩壊は許してください;;
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる