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24 side雨月
しおりを挟む「この、馬鹿たれ!」
久しぶりに聞く怒声に、肩がびくりと跳ねる。
恐る恐る相手──伯父・裕太郎さんの顔を見る。怒りと心配が入り混じったような表情に、胸が痛んだ。
「何で一人で勝手に日本に来たんだ!あれほど変な気は起こすなと言っただろう!」
「それは、」
「挙げ句、電話にも出ない!リアム君から聞いた時、俺がどれだけ心配したか!」
「……ごめんなさい」
それについては本当に心配をかけさせたと思う。そう思い謝罪すると、裕太郎さんは大きなため息を吐いた。
「…俺だってあいつらの事は許し難いと思うよ。けどな、それ以上にお前の事が大事なんだ。お前に何かあったら彩子に顔向けできない」
「………」
「だから、帰ろう。復讐なんて馬鹿な事、考えるんじゃない」
裕太郎さんの気持ちは痛いほど伝わってくる。引き取ってくれたあの時から親代わりになってくれて、一生懸命に育ててくれた。返しても返しても返しきれない程の恩がある人。
そんな人にこれ以上迷惑はかけられない。本当ならここで頷くのが正しいのだろう。
でも、おれは…
「…いやです」
「雨月!」
「裕太郎さんだって本当の事を知りたいでしょう?」
「っ、それは…」
「おれも知りたいです。本当は何があったのか、母さんはどうしてあんな死に方をしなくちゃならなかったのか」
「雨月…」
裕太郎さんの顔が沈痛な面持ちになる。
「それに…裕太郎さん、何か知ってるんじゃないですか?」
「! 何で…そう思うんだ」
「おれに何かあったら母さんに顔向けできないってさっき言いましたよね?でもそれって裏を返せば、おれが何かすれば危害を加えるような人間がいるかもしれないって事ですよね」
「!!」
驚きに固まる裕太郎さんの態度に、やっぱりと確信する。
「何を知ってるんですか?教えて下さい!」
「…っ」
「裕太郎さん!」
「~~~いい加減にしなさい!」
それは、明確な拒絶だった。
「…俺は何も知らない。もし知っていたとしても教える訳にはいかない」
「裕太郎さん…」
「…分かってくれ、雨月。お前のためなんだ」
「……本気で言ってるんですか?」
「………」
「本気でおれのためを思うなら、教えて下さい。何に…気付いたんですか?」
「………」
僅かに裕太郎さんの眉が動く。やはり、この人は何かを知っている。
けれど、いつまで経っても裕太郎さんが口を開こうとする気配はなくて
「あくまでも言わないつもりなんですね…」
「…すまない」
謝るくらいなら…と思うが、それを言ったら自分もだろう。
「…悪い。もう行く」
腕時計を見て、裕太郎さんが踵を返す。
裕太郎さんは今、日本で行われる大規模なショーイベントのために来ている。
「…雨月」
「………」
「三門くんの事は忘れなさい」
…そして、恐らくその仕事が終われば、おれも無理矢理連れ帰らされる事になるだろう。
「…母さん」
おれは、どうすればいい?
窓から見える景色が、滲んで見えた。
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