シスルの花束を

碧月 晶

文字の大きさ
上 下
24 / 62

24 side雨月

しおりを挟む

「この、馬鹿たれ!」

久しぶりに聞く怒声に、肩がびくりと跳ねる。

恐る恐る相手──伯父・裕太郎ゆうたろうさんの顔を見る。怒りと心配が入り混じったような表情に、胸が痛んだ。

「何で一人で勝手に日本に来たんだ!あれほど変な気は起こすなと言っただろう!」
「それは、」
「挙げ句、電話にも出ない!リアム君から聞いた時、俺がどれだけ心配したか!」
「……ごめんなさい」

それについては本当に心配をかけさせたと思う。そう思い謝罪すると、裕太郎さんは大きなため息を吐いた。

「…俺だってあいつらの事は許し難いと思うよ。けどな、それ以上にお前の事が大事なんだ。お前に何かあったら彩子に顔向けできない」
「………」
「だから、帰ろう。復讐なんて馬鹿な事、考えるんじゃない」

裕太郎さんの気持ちは痛いほど伝わってくる。引き取ってくれたあの時から親代わりになってくれて、一生懸命に育ててくれた。返しても返しても返しきれない程の恩がある人。

そんな人にこれ以上迷惑はかけられない。本当ならここで頷くのが正しいのだろう。

でも、おれは…

「…いやです」
雨月うげつ!」
「裕太郎さんだって本当の事を知りたいでしょう?」
「っ、それは…」
「おれも知りたいです。本当は何があったのか、母さんはどうしてあんな死に方をしなくちゃならなかったのか」
「雨月…」

裕太郎さんの顔が沈痛な面持ちになる。

「それに…裕太郎さん、何か知ってるんじゃないですか?」
「! 何で…そう思うんだ」
「おれに何かあったら母さんに顔向けできないってさっき言いましたよね?でもそれって裏を返せば、おれが何かすれば危害を加えるような人間がいるかもしれないって事ですよね」
「!!」

驚きに固まる裕太郎さんの態度に、やっぱりと確信する。

「何を知ってるんですか?教えて下さい!」
「…っ」
「裕太郎さん!」
「~~~いい加減にしなさい!」

それは、明確な拒絶だった。

「…俺は何も知らない。もし知っていたとしても教える訳にはいかない」
「裕太郎さん…」
「…分かってくれ、雨月。お前のためなんだ」
「……本気で言ってるんですか?」
「………」
「本気でおれのためを思うなら、教えて下さい。何に…気付いたんですか?」
「………」

僅かに裕太郎さんの眉が動く。やはり、この人は何かを知っている。
けれど、いつまで経っても裕太郎さんが口を開こうとする気配はなくて

「あくまでも言わないつもりなんですね…」
「…すまない」

謝るくらいなら…と思うが、それを言ったら自分もだろう。

「…悪い。もう行く」

腕時計を見て、裕太郎さんが踵を返す。

裕太郎さんは今、日本で行われる大規模なショーイベントのために来ている。

「…雨月」
「………」
「三門くんの事は忘れなさい」

…そして、恐らくその仕事が終われば、おれも無理矢理連れ帰らされる事になるだろう。

「…母さん」

おれは、どうすればいい?

窓から見える景色が、にじんで見えた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

獣人将軍のヒモ

kouta
BL
巻き込まれて異世界移転した高校生が異世界でお金持ちの獣人に飼われて幸せになるお話 ※ムーンライトノベルにも投稿しています

フルチン魔王と雄っぱい勇者

ミクリ21
BL
フルチンの魔王と、雄っぱいが素晴らしい勇者の話。

ある少年の体調不良について

雨水林檎
BL
皆に好かれるいつもにこやかな少年新島陽(にいじまはる)と幼馴染で親友の薬師寺優巳(やくしじまさみ)。高校に入学してしばらく陽は風邪をひいたことをきっかけにひどく体調を崩して行く……。 BLもしくはブロマンス小説。 体調不良描写があります。

エリート上司に完全に落とされるまで

琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。 彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。 そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。 社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。

処理中です...