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22 side雨月
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こうして、三門を匿う生活が始まった。
念のため、三門の事は知らない体でいくことにした。
するとその成果か、最初は拾ったばかりの猫のようにこちらを警戒しているようだったが、時間が経つにつれて素を見せるようになっていった。
だが、あともうひと押し足りない。完全に信用されるにはどうすれば良いか。考えた。
考えた末、実行した。
「…君は、犯人を知りたいですか?」
興信所を使って、三門の実家の事はある程度調べていた。
父親──冷泉院 通は、冷泉院グループが経営する会社の社長。
母親──冷泉院ゆりえは、同会社の副社長にして社長夫人。
兄───和泉 竜雅【本名:冷泉院 竜雅】は、幼い頃から芸能界で活躍し、現在は三門と一二を争う人気モデル。
弟───氷室 三門。【本名:冷泉院三門】性格は俺様で短気。でも…優しいところもある。
体調を崩した時、不平不満を良いながらも看病してくれた手は母さんを思い出し………いや、今はそんな情報はどうでもいい。
とにかく、その過程で三門を陥れた犯人が和泉竜雅であると分かった。
結論から言って、企みは成功した。
三門はおれに頻繁に連絡するようになった。…そして、度々身体を求められるようにもなった。
初めて抱かれた時、抵抗がなかった訳ではない。でも……自分でも分からないが、三門のあの狼のような鋭い眼差しに射抜かれると逆らえなかった。
けれど、気にはしなかった。大事の前の小事。あいつらに近付くためなら、これくらいの事何でもない。犬に噛まれた程度と思う事にした。
そうして、三門に着いて撮影現場に入れる事が多くなってきた時、その時は突然やってきた。
「久しぶりね、三門。近くに来たから少しあなたの顔を見に来たの。元気にしているようで何よりだわ」
「お久しぶりです、ゆりえさん」
…ゆりえ…?
驚きは声に出てしまっていたらしい。
直ぐに取り繕う。確信が持てるまで、ここで怪しまれる訳にはいかない。
「三門、そちらの方はどなたかしら?新しいモデルさん?」
瞬間、おれの中でどす黒い何かが蠢いた気がした。
「初めまして、寒河江と言います。三門くんとは最近知り合って仲良くさせてもらっています。今日もその縁で見学に誘って頂いたんです」
耐えろ。
「カメラマンさんなのね。それにこの会社って確かフランスの…」
「はい。流石、よくご存知ですね」
「そりゃあそうよ。でも、そうなのね。あなた若いのに凄いじゃない」
「ありがとうございます」
怪しまれるな。やっと、巡ってきたチャンスなのだから。
今すぐ詰め寄って母さんの事を問いただしてやりたい衝動をどうにか押さえ込んだ。
けれど、その場は凌げても心とはままならないものだ。
「……三門、一つ聞いてもいいですか」
確認したい欲求が心を支配する。
「ゆりえさん、と言いましたか。彼女は一体誰だったんですか?」
三門は特に訝しむことなく、答えてくれた。
そして、今日会った『ゆりえさん』は母さんの日記に出てきた『ゆりえ』と同一人物だと確信した。
多分、自分では分からなかったが動揺していたんだと思う。
だから、ムキになった。
「加害者の方にも何か事情があったのかもしれませんよ」
しまった。そう思った時にはもう遅かった。
売り言葉に買い言葉。あの時感じた思いが溢れ出して、おれの口は止まらなかった。
そして、とうとう…
「…出ていけ」
三門の顔は怒りのそれへと染まっていた。
「聞こえなかったのかよ…その面暫く見せんな!」
もう何を言っても聞き入れて貰えないだろう。
やってしまった。そう後悔しながら、おれは三門のマンションを後にした。
念のため、三門の事は知らない体でいくことにした。
するとその成果か、最初は拾ったばかりの猫のようにこちらを警戒しているようだったが、時間が経つにつれて素を見せるようになっていった。
だが、あともうひと押し足りない。完全に信用されるにはどうすれば良いか。考えた。
考えた末、実行した。
「…君は、犯人を知りたいですか?」
興信所を使って、三門の実家の事はある程度調べていた。
父親──冷泉院 通は、冷泉院グループが経営する会社の社長。
母親──冷泉院ゆりえは、同会社の副社長にして社長夫人。
兄───和泉 竜雅【本名:冷泉院 竜雅】は、幼い頃から芸能界で活躍し、現在は三門と一二を争う人気モデル。
弟───氷室 三門。【本名:冷泉院三門】性格は俺様で短気。でも…優しいところもある。
体調を崩した時、不平不満を良いながらも看病してくれた手は母さんを思い出し………いや、今はそんな情報はどうでもいい。
とにかく、その過程で三門を陥れた犯人が和泉竜雅であると分かった。
結論から言って、企みは成功した。
三門はおれに頻繁に連絡するようになった。…そして、度々身体を求められるようにもなった。
初めて抱かれた時、抵抗がなかった訳ではない。でも……自分でも分からないが、三門のあの狼のような鋭い眼差しに射抜かれると逆らえなかった。
けれど、気にはしなかった。大事の前の小事。あいつらに近付くためなら、これくらいの事何でもない。犬に噛まれた程度と思う事にした。
そうして、三門に着いて撮影現場に入れる事が多くなってきた時、その時は突然やってきた。
「久しぶりね、三門。近くに来たから少しあなたの顔を見に来たの。元気にしているようで何よりだわ」
「お久しぶりです、ゆりえさん」
…ゆりえ…?
驚きは声に出てしまっていたらしい。
直ぐに取り繕う。確信が持てるまで、ここで怪しまれる訳にはいかない。
「三門、そちらの方はどなたかしら?新しいモデルさん?」
瞬間、おれの中でどす黒い何かが蠢いた気がした。
「初めまして、寒河江と言います。三門くんとは最近知り合って仲良くさせてもらっています。今日もその縁で見学に誘って頂いたんです」
耐えろ。
「カメラマンさんなのね。それにこの会社って確かフランスの…」
「はい。流石、よくご存知ですね」
「そりゃあそうよ。でも、そうなのね。あなた若いのに凄いじゃない」
「ありがとうございます」
怪しまれるな。やっと、巡ってきたチャンスなのだから。
今すぐ詰め寄って母さんの事を問いただしてやりたい衝動をどうにか押さえ込んだ。
けれど、その場は凌げても心とはままならないものだ。
「……三門、一つ聞いてもいいですか」
確認したい欲求が心を支配する。
「ゆりえさん、と言いましたか。彼女は一体誰だったんですか?」
三門は特に訝しむことなく、答えてくれた。
そして、今日会った『ゆりえさん』は母さんの日記に出てきた『ゆりえ』と同一人物だと確信した。
多分、自分では分からなかったが動揺していたんだと思う。
だから、ムキになった。
「加害者の方にも何か事情があったのかもしれませんよ」
しまった。そう思った時にはもう遅かった。
売り言葉に買い言葉。あの時感じた思いが溢れ出して、おれの口は止まらなかった。
そして、とうとう…
「…出ていけ」
三門の顔は怒りのそれへと染まっていた。
「聞こえなかったのかよ…その面暫く見せんな!」
もう何を言っても聞き入れて貰えないだろう。
やってしまった。そう後悔しながら、おれは三門のマンションを後にした。
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