シスルの花束を

碧月 晶

文字の大きさ
上 下
17 / 62

17

しおりを挟む

───Prrrr、Prrrr

「…チッ、出ねえ」

歩きながらかけていた電話を切り、スマートフォンを上着のポケットにしまう。

珍しい。あいつが電話に出ないなんて。

雨月うげつが電話に出なかった事なんて今までで二回くらいしかない。と言っても、後で必ずかけ直してきていたが…

「今回はねえだろーな…」

何となくだが、そう思う。

そうこうしているうちに雨月のマンションに到着し、エントランスに入って部屋番号を押してインターホンを鳴らすも…

「…居ねえのか?」

居留守を使われているのか、それとも本当に居ないのか。その後も何度か呼び出し続けたが、雨月が出る事はとうとう無かった。

「チッ、どこ行きやがったあいつ」

と、出直そうと踵を返したところでとあるものが目に入り、オレはその場に立ち止まった。

…郵便受けの表札がない?

以前来た時は、確かに雨月が住んでいた部屋番号の郵便受けの所に『寒河江』と表札が入っていたはずだ。だが今はそれが外されている。

「まさか…」

過ぎった可能性を確かめるべく、コンシェルジュに聞くと

「はい。前の住民の方が引っ越されたため、只今その部屋は空室になっております」

返ってきた答えは予想通りのものだった。

「………」

来た道を茫然と歩く。

居場所も分からない。電話にも出ない。
あいつがオレと接点を持とうとしなければ、こんなにも簡単に会えなくなるものなのか。

───カシャッ

「!」

突然のシャッター音に音がした方を振り返ると、そこには無精ひげを生やした見知らぬ男がニヤニヤと笑いながら立っていた。

その男を見た瞬間、嫌悪に体が震える。

知っている。いや、この男個人の事は何も知らないが、どういう人間かは知っている。

他人の粗探しばかりして、隙あらば揚げ足を取り、知られたくない事だろうがプライベートな事だろうが関係なく根掘り葉掘り追究するまで気が済まない連中。
俗に言うパパラッチと呼ばれる奴らだ。

「初めまして、氷室三門さん」
「………」
「俺はこういう者でしてね」

男はオレに近付いてくると、懐から名刺を取り出した。

『○×会社 カメラマン 沢巳さわみ 譲二じょうじ

名刺にはそう書かれていた。

「オレに何の用だ」

差し出された名刺を一瞥(いちべつ)はしたものの、受け取らず無視して問いかけると、男───沢巳は肩をすくめながら名刺を懐に戻した。

「そう警戒しないで下さいよ。ここ最近アンタを尾行させて貰ったが特に面白いもんは撮れなかったんで」
「…!」
「ま、いくつか気になるもんは撮れましたがねぇ」
「………」

意味深な眼差しを寄越し、挑発するように嘲笑う沢巳に嫌悪感が募っていく。

「チッ、お前らに構ってる暇はねえんだよ」

一刻も早くこの場を、この男の前から去りたい。そう思い、歩き出そうとした時だった。

「寒河江雨月」
「…っ、」

沢巳の口から発せられた名前に思わず足を止めてしまう。

「彼の事、知りたくないですかぁ?」
「………」

見なくても分かる。下卑げびわらいを浮かべて、こちらの反応を窺っているのだろう。

こいつらの事は嫌いだ。大っ嫌いだが、情報収集にかけては方向性が間違っている事を除けば目を見張るものがあるのも事実。
そして雨月の情報が途絶えた今、オレがすべき選択は…

「…何が目的だ」

振り返り、沢巳の眼をきっと見据える。

「なぁに、単純な理由ですよ。俺は知りたがりなんでね。ああ、勿論情報料はタダで結構ですよ?」
「………」
「さて、それじゃあ場所を変えましょうか」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

総受けルート確定のBLゲーの主人公に転生してしまったんだけど、ここからソロエンドを迎えるにはどうすればいい?

寺一(テライチ)
BL
──妹よ。にいちゃんは、これから五人の男に抱かれるかもしれません。 ユズイはシスコン気味なことを除けばごくふつうの男子高校生。 ある日、熱をだした妹にかわって彼女が予約したゲームを店まで取りにいくことに。 その帰り道、ユズイは階段から足を踏みはずして命を落としてしまう。 そこに現れた女神さまは「あなたはこんなにはやく死ぬはずではなかった、お詫びに好きな条件で転生させてあげます」と言う。 それに「チート転生がしてみたい」と答えるユズイ。 女神さまは喜んで願いを叶えてくれた……ただしBLゲーの世界で。 BLゲーでのチート。それはとにかく攻略対象の好感度がバグレベルで上がっていくということ。 このままではなにもしなくても総受けルートが確定してしまう! 男にモテても仕方ないとユズイはソロエンドを目指すが、チートを望んだ代償は大きくて……!? 溺愛&執着されまくりの学園ラブコメです。

Estrella

碧月 晶
BL
強面×色素薄い系 『Twinkle twinkle little star.How I wonder what you are? ────きらきらきらめく小さな星よ。君は一体何ものなの?』 それは、ある日の出来事 俺はそれを目撃した。 「ソレが大丈夫かって聞いてんだよ!」 「あー、…………多分?」 「いや絶対大丈夫じゃねぇだろソレ!!」 「アハハハ、大丈夫大丈夫~」 「笑い事じゃねぇから!」 ソイツは柔らかくて、黒くて、でも白々しくて 変な奴だった。 「お前の目的は、何だったんだよ」 お前の心はどこにあるんだ───。 ─────────── ※Estrella→読み:『エストレージャ』(スペイン語で『星』を意味する言葉)。 ※『*』は(人物・時系列等の)視点が切り替わります。 ※BLove様でも掲載中の作品です。 ※最初の方は凄くふざけてますが、徐々に真面目にシリアス(?)にさせていきます。 ※表紙絵は友人様作です。 ※感想、質問大歓迎です!!

旦那様と僕・番外編

三冬月マヨ
BL
『旦那様と僕』の番外編。 基本的にぽかぽか。

放課後教室

Kokonuca.
BL
ある放課後の教室で彼に起こった凶事からすべて始まる

異世界ぼっち暮らし(神様と一緒!!)

藤雪たすく
BL
愛してくれない家族から旅立ち、希望に満ちた一人暮らしが始まるはずが……異世界で一人暮らしが始まった!? 手違いで人の命を巻き込む神様なんて信じません!!俺が信じる神様はこの世にただ一人……俺の推しは神様です!!

『これで最後だから』と、抱きしめた腕の中で泣いていた

和泉奏
BL
「…俺も、愛しています」と返した従者の表情は、泣きそうなのに綺麗で。 皇太子×従者

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

処理中です...