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すっかり肌寒くなった木漏れ日の中、アザミの花束を手に歩く。
…あれから一週間が経った。雨月とはあれ以来連絡を取っていない。
最初の頃は、オレは悪くないと雨月から謝ってくるのを待っていたが、一向にかかってこない連絡に苛立ち始めた時、ふと気が付いた。
いつも連絡するのはオレからで、雨月からしてきた事は一度もない事に。
気付いて、愕然とした。オレから関わらなければこんなにも希薄な関係だったのかと。
「久しぶりだな…」
墓前に持ってきた花束を供え、手を合わせる。墓には『氷室家之墓』の文字。ここにはオレの本当の母親が眠っている。
───18年前。
オレは、いやオレたちは交通事故に遭った。ぶつかってきた車に乗っていたのは女で、飲酒運転だったらしい。
当時オレはまだ5歳で。事故が起こった時、何が何だか分からなかった。朧(おぼろ)げに思い出せるのは、オレを庇うように抱き締めてくれた母の強い腕の感触だけ。
その後、母は病院に運ばれたが搬送先で息を引きとった。同じく運転手の女も別の病院で亡くなったと後で聞いた。
何が起きたのか、何が起こっているのか。分からずにただ茫然と立ち尽くすオレの前にゆりえさんが現れたのはそんな時だった。
ゆりえさんは、母子家庭で親戚との付き合いもなかったオレに手を差し伸べ、養子として冷泉院家に迎え入れてくれた。
何でも、事故の瞬間を見ていたらしいのだ。それで可哀想に思い、オレに声を掛けてくれたのだと言った。
だから、ゆりえさんは恩人だ。
高校を出て、芸能界に入ろうか迷っているオレの背中を押してくれたのも彼女だ。
「……雨月」
気が付けば、無意識にその名を呼んでいた。
『加害者の方にも何か事情があったのかもしれませんよ』
…事情って何だよ、事情って
雨月の言葉は今思い出しても苛立つが、言われてみれば確かに、かつて被害に遭った身として同じような事故が起こる度気分が悪くなっていたものだが、加害者側の事情なんて考えもしなかった。
だが、
「…考えたからって何になるってんだよ」
考えたからといって、失ったものが戻ってくる訳でもない。ならば、考えるだけ無駄ではないのか。そう思ってしまう。
『…車に何か異常があったのかもしれないじゃないですか』
雨月が言っていた言葉が蘇り、ふと思う。…あいつは何であそこまで加害者の肩を持っていたんだ?
オレが被害者側の事しか頭になかったように、雨月にもそう主張するだけの何か理由があったのだとしたら?
───『喧嘩したら、ごめんなさいってしなきゃダメよ』
刹那、幼い頃に母に言われた言葉が思い出される。
「………」
正直、今でも自分に非があったとは思っていない。
でも、もう少し雨月の話を、理由を聞いてやれば良かったと思わなくもない。
霊園を後にし、歩き出す。
…今度の休み、雨月の家に行ってみるか
…あれから一週間が経った。雨月とはあれ以来連絡を取っていない。
最初の頃は、オレは悪くないと雨月から謝ってくるのを待っていたが、一向にかかってこない連絡に苛立ち始めた時、ふと気が付いた。
いつも連絡するのはオレからで、雨月からしてきた事は一度もない事に。
気付いて、愕然とした。オレから関わらなければこんなにも希薄な関係だったのかと。
「久しぶりだな…」
墓前に持ってきた花束を供え、手を合わせる。墓には『氷室家之墓』の文字。ここにはオレの本当の母親が眠っている。
───18年前。
オレは、いやオレたちは交通事故に遭った。ぶつかってきた車に乗っていたのは女で、飲酒運転だったらしい。
当時オレはまだ5歳で。事故が起こった時、何が何だか分からなかった。朧(おぼろ)げに思い出せるのは、オレを庇うように抱き締めてくれた母の強い腕の感触だけ。
その後、母は病院に運ばれたが搬送先で息を引きとった。同じく運転手の女も別の病院で亡くなったと後で聞いた。
何が起きたのか、何が起こっているのか。分からずにただ茫然と立ち尽くすオレの前にゆりえさんが現れたのはそんな時だった。
ゆりえさんは、母子家庭で親戚との付き合いもなかったオレに手を差し伸べ、養子として冷泉院家に迎え入れてくれた。
何でも、事故の瞬間を見ていたらしいのだ。それで可哀想に思い、オレに声を掛けてくれたのだと言った。
だから、ゆりえさんは恩人だ。
高校を出て、芸能界に入ろうか迷っているオレの背中を押してくれたのも彼女だ。
「……雨月」
気が付けば、無意識にその名を呼んでいた。
『加害者の方にも何か事情があったのかもしれませんよ』
…事情って何だよ、事情って
雨月の言葉は今思い出しても苛立つが、言われてみれば確かに、かつて被害に遭った身として同じような事故が起こる度気分が悪くなっていたものだが、加害者側の事情なんて考えもしなかった。
だが、
「…考えたからって何になるってんだよ」
考えたからといって、失ったものが戻ってくる訳でもない。ならば、考えるだけ無駄ではないのか。そう思ってしまう。
『…車に何か異常があったのかもしれないじゃないですか』
雨月が言っていた言葉が蘇り、ふと思う。…あいつは何であそこまで加害者の肩を持っていたんだ?
オレが被害者側の事しか頭になかったように、雨月にもそう主張するだけの何か理由があったのだとしたら?
───『喧嘩したら、ごめんなさいってしなきゃダメよ』
刹那、幼い頃に母に言われた言葉が思い出される。
「………」
正直、今でも自分に非があったとは思っていない。
でも、もう少し雨月の話を、理由を聞いてやれば良かったと思わなくもない。
霊園を後にし、歩き出す。
…今度の休み、雨月の家に行ってみるか
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