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しおりを挟む───『氷室三門、見事に汚名返上!芸能界復帰を果たす!』
───『卑劣な手を使った女プロデューサー、涙ながらに自白か』
───『●月某日、大人気モデルである氷室三門が大手番組女プロデューサーとの枕営業の現場写真が掲載された。しかし、これは女プロデューサーが仕組んだ自作自演だった事が発覚した。この女プロデューサーは過去にも同じような事例を繰り返しており、何人もの被害者がいた。氷室もこの被害者の内一人であったが、この事実を調べ上げ、見事女プロデューサーを追い詰めるまでに至った。女プロデューサーは「もっとのし上がりたかった」などと供述している。それに対して氷室は記者会見でこう語っている。「こんな卑劣な手を使う人間が許せなかった。自分と同じ被害に遭った人たちのために、何よりこんなオレを信じてくれた人たちのために行動した」と。この言葉は氷室のファンの心に深く刺さったという』
バサリと持っていた週刊誌をテーブルの上に投げ捨てる。
「…は、見事な手のひら返しだな」
新聞、週刊誌、テレビ。ここ連日、話題はオレの事で持ち切りだった。一度はオレをそしるような記事を書いておきながら、今度は絶賛する。その手のひらの返しようは面白ささえ感じる。
「お前もそう思うだろ? 竜雅」
わざとらしくそうと問いかけると、正面に座る相手——竜雅はそれまで醸し出していた優男然な雰囲気がガラリと変わった。
お行儀良く揃えていた脚は大きく開かれ、膝に置かれていた手はガシガシと乱暴に頭をかく。
「…何で、言わなかった」
低い声音。普段テレビに映るこいつを知っている奴が聞けば、それはそれは驚くだろうな。…まあ、こっちが素なのだろうが。
「もう分かってるんだろ?俺がどういう人間か」
「…ああ」
竜雅の性格が普段メディアや周りに見せているものとは違うと分かったのは、他にもオレと同じような被害者がいないか調べている時だった。
小林を筆頭に高校時代の後輩のほとんどが小林と同じような目にあわされ、芸能界では裏で気に入らない奴を陥れるために上の人間を金で買収し、手を組んで数々の人間を罠にはめてきた。
「その前に、オレからも聞きてえ事がある」
「…何だよ」
じろりと怪訝そうにオレを睨む竜雅の眼を真っ直ぐ見据え、口を開く。
「お前、何でこんな事したんだ。そんな事しなくたってお前なら実力でのし上がれたはずだろ」
そう。『和泉竜雅』と言えば、芸能界では知らぬ人間はいない程その演技力はずば抜けていて、モデル業だけでなく俳優業もこなす有名人だ。
その人気はさることながら実力も確かで、多方面にもそれは認められていたはず。なのに、何故そんな奴が裏でこんな卑劣な三流の奴がやるような悪事に手を染めているのか理解できなかった。
「……お前が」
そう聞くと、それまでどこか斜に構えていた竜雅の様子が一変した。わなわなと握った拳を震わせ、カッと目を見開く。
「お前さえいなければ!」
その瞳は憎悪に満ちていた。
「子供の頃からお前ばかり構われて、どんなに俺が努力しても見向きもして貰えない!俺の猿真似でこの業界に入ったくせに、何でお前の方が人気があるんだ!何で俺が選ばれないんだ!やる気もないくせにいつもいつもオレを馬鹿にしやがって!何で、何で…っ、父さんはこんな奴を!このっ、養子のくせに!!」
「———…」
これは竜雅が長年溜め込んできた本音の一部なのだろう。
竜雅が普段良い子ちゃんを演じていたのも、恐らく根底に態度の悪いオレへの対抗心があったから。だが、
「お前の言い分は分かった。けどな、だからってやって良いと悪い事があんだよ」
「…っ、お前に俺の気持ちが——」
「ああ分からねえよ。分かりたくもねえ」
「な…っ」
オレの返答が気に入らなかったのか、ますます竜雅の顔が怒りに染まる。
それは分かっていたが、気にせず続ける。
「お前の事を言わなかったのは、せめてもの情けだ」
「情け、だと?そんなもの──」
「本当に残念だよ。お前の事はオレには出来ねえ事ができるすげえ奴だと思ってたのに」
「……は?」
なのに、裏でこんな事ばかりしていたとはな。
「オレがこのネタをどう使うかはお前の行動次第だ」
「な、え、は?お前が…俺を認めてた?」
「嘘だ」と信じられないものを見るような眼で呆然とする竜雅の眼差しに、オレは呆れたように溜め息を吐く。
「だから、さっきからそうだって言ってんだろ。…お前はすげえ奴だよ。だから、この先どうするかはお前の自由だ。けどな、このオレをこれ以上失望させんな」
「………」
完全に茫然自失となった竜雅を尻目に、オレは「じゃあな」と竜雅のマンションを後にした。
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