シスルの花束を

碧月 晶

文字の大きさ
上 下
6 / 62

しおりを挟む

「───…」

閉じた瞼の向こうに光を感じる。

…朝か

ゆっくりと起き上がり、ぼうっとする頭がまず最初に思い出したのは昨夜の事。

そうだ。雨月うげつが気を失った後、オレもその隣りで眠ったのだと思い出し、己の隣りに視線を向ける。

「な…」

だが、そこにもう雨月の姿はなかった。

「っ」

途端に迸った衝動がオレを突き動かす。ベッドから降り、寝室の扉を勢いよく開ける。と、

「あ、起きましたか」
「………」

そこには何食わぬ顔でいつも通りに食事の準備をしている雨月が立っていた。

「今起こしに行こうと思ってたんです」
「………」
「早く着替えて来て下さいね」

そう言うと再びキッチンへと戻っていった後ろ姿を、オレは暫く呆然と見ていた。

*****

「………」

目の前で朝食を食べているこの男の考えている事が全く分からない

「食べないんですか?」

食事に手を付けず、ひたすらに自分を見ているオレを流石に不思議に思ったのか、雨月が食べる手を止めて首を傾げる。

「…お前、何考えてんだよ」
「?」

そう聞いても尚、何を言っているのか分からないというように首を傾げる様子に思わず舌打ちしてしまう。

「だから、何でそんな普通にしてられんだって聞いてんだよ」

経緯はどうあれ、無理矢理抱いたようなもの。であれば、それなりの反応が返って来てもおかしくはない。それが普通だろう。

にも関わらず、目の前の男は特別何も気にする事はなかったとでも言いたげな態度。
昨夜の雨月のベッドでの艶姿(あですがた)がまるで幻だったのでないかと思ってしまうほどだ。

「…ああ、もしかして昨夜の事ですか?」

それ以外に何があるんだ。

「まあ、ああいった事は初めてでしたけど…」
「何だよ」

暫く考え込むようにした後、雨月は答えた。

「別に気にする程の事ではないですね」
「───は?」

雨月の言葉に耳を疑った。

「あ。すみません、今日も少し出てきますね。食事はいつも通り冷蔵庫の中の物を好きしてもらって構いませんから」

そう言って、雨月は止める間もなくあっという間にどこかへと出かけていった。

「………は?」

気にする程の事ではない。あいつはさっき確かにそう言った。

…は?このオレに?抱かれておいて?別に?気にしない?

じゃあ、あれは何だったんだ?オレに抱かれてアンアン鳴きまくってたくせに?

「…は、なるほどなぁ」

どうやらオレは期待していたらしい。
今後、オレの前でどんな風に表情を、態度を変えるのか。

だが、実際は違った。

「…あほくさ」

何をがっかりしているのか。これではまるで意識しているのは自分だけのようではないか。

ふつふつと苛立ちが込み上げてくる。ここまで虚仮(こけ)にされたのは初めてだ。

「…あいつ、帰ってきたら覚えてろよ」

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

家族になろうか

わこ
BL
金持ち若社長に可愛がられる少年の話。 かつて自サイトに載せていたお話です。 表紙画像はぱくたそ様(www.pakutaso.com)よりお借りしています。

Take On Me

マン太
BL
 親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。  初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。  岳とも次第に打ち解ける様になり…。    軽いノリのお話しを目指しています。  ※BLに分類していますが軽めです。  ※他サイトへも掲載しています。

ある少年の体調不良について

雨水林檎
BL
皆に好かれるいつもにこやかな少年新島陽(にいじまはる)と幼馴染で親友の薬師寺優巳(やくしじまさみ)。高校に入学してしばらく陽は風邪をひいたことをきっかけにひどく体調を崩して行く……。 BLもしくはブロマンス小説。 体調不良描写があります。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

アルバイトで実験台

夏向りん
BL
給料いいバイトあるよ、と教えてもらったバイト先は大人用玩具実験台だった! ローター、オナホ、フェラ、玩具責め、放置、等々の要素有り

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

処理中です...