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月が雨でけぶる夜に、あいつに拾われてから一週間が経った。
オレはというと、今日も今日とてなかなか広い部屋の窓からなかなか降り止まない雨を眺めていた。
カチャン、と玄関から音がし、視線をそちらへと向ける。
「…ああ、起きてたんですね」
「まあな」
夜、帰ってきたのはこの部屋の家主である男。名前は寒河江 雨月。この顔で26才だそうだ(どこからどう見ても高校生くらいにしか見えないが)。
そんな童顔過ぎるこの男の元で一週間過ごしたが、未だに謎が多い。
まず、(自分で言うのもなんだが)怪しさ満々のオレを何故家に入れたのか。
聞いても「何となく、ですかね」としか言わない。
それに、この男──雨月はオレを知らなかった。CM、雑誌、広告と幅広く起用されているモデルであるこのオレを、だ。
そんな事があり得るのかと最初は驚いたが、この部屋を見て何となく納得した。
この家にはテレビが無い。しかも殺風景で必要最低限のものしか置いていないから、本当にここに住んでいるのかと疑うレベルで生活感があまりしない。
勿論寝具はセミダブルのベッドしかないので、仕方なく一緒に使っている。…なんだよ、オレだって鬼じゃねえからな。それくらいの我慢は出来る。
…で、だ。一番の謎は、こいつが何者かって事だ。
仕事はしているようだが、いつもパソコンがある仕事部屋に籠って何かしているかと思えば、今日みたいにどこかへ出かけて行く日もある。
この一週間、その繰り返しだ。
まあ、オレも名前以外こいつに明かしていないから怪しさは似たようなもんだが。
「ご飯は食べましたか?」
「ああ」
このやり取りもこの一週間ずっと続けている。この後は、いつも雨月は風呂に入って泥のように眠る。
「そうですか」
相変わらずの無表情でそう答えると、雨月の足音が風呂場へと向かっていく気配がした。
雨月は烏の行水だ。いつものように30分くらいで出てくるだろう。
欠伸を零し、ごろりと横になる。そして、オレはそのままうたた寝してしまった。
*****
ふと起きて時計を見ると、眠ってしまってから1時間が経過していた。
だが、風呂場からシャワーの音が聞こえて首を傾げた。
オレが眠ってしまってから1時間は経っている。にも関わらず、あいつはまだ上がってきていない。烏の行水のあいつが。
鳴り止まないシャワーの音に、嫌な予感がした。
…いや、偶々今日は長風呂したかったって事もあるだろ
そうは思うものの、オレの足はゆっくりと風呂場へと向かう。
「おい」
風呂場のすりガラスの扉の前に立ち、低く短く呼び掛けてみる。
「………」
だが、相変わらずシャワーの音はすれども、返事が無い。もう一度呼びかけてみる。
「おい」
「………」
「…チッ。お前、聞いてんのか───」
待てども帰って来ない返事に痺れを切らし、扉を開けるとそこには──
「!」
床に倒れている雨月がいた。
抱き起こすと、僅かに反応があった。生きている事にほっとしたが、息が荒い事に気がつく。
もしやと思い、額に手をやると
「チッ、熱かよ」
バスタオルで雨月の体を包み込み、抱き上げてベッドまで運んだ。
オレはというと、今日も今日とてなかなか広い部屋の窓からなかなか降り止まない雨を眺めていた。
カチャン、と玄関から音がし、視線をそちらへと向ける。
「…ああ、起きてたんですね」
「まあな」
夜、帰ってきたのはこの部屋の家主である男。名前は寒河江 雨月。この顔で26才だそうだ(どこからどう見ても高校生くらいにしか見えないが)。
そんな童顔過ぎるこの男の元で一週間過ごしたが、未だに謎が多い。
まず、(自分で言うのもなんだが)怪しさ満々のオレを何故家に入れたのか。
聞いても「何となく、ですかね」としか言わない。
それに、この男──雨月はオレを知らなかった。CM、雑誌、広告と幅広く起用されているモデルであるこのオレを、だ。
そんな事があり得るのかと最初は驚いたが、この部屋を見て何となく納得した。
この家にはテレビが無い。しかも殺風景で必要最低限のものしか置いていないから、本当にここに住んでいるのかと疑うレベルで生活感があまりしない。
勿論寝具はセミダブルのベッドしかないので、仕方なく一緒に使っている。…なんだよ、オレだって鬼じゃねえからな。それくらいの我慢は出来る。
…で、だ。一番の謎は、こいつが何者かって事だ。
仕事はしているようだが、いつもパソコンがある仕事部屋に籠って何かしているかと思えば、今日みたいにどこかへ出かけて行く日もある。
この一週間、その繰り返しだ。
まあ、オレも名前以外こいつに明かしていないから怪しさは似たようなもんだが。
「ご飯は食べましたか?」
「ああ」
このやり取りもこの一週間ずっと続けている。この後は、いつも雨月は風呂に入って泥のように眠る。
「そうですか」
相変わらずの無表情でそう答えると、雨月の足音が風呂場へと向かっていく気配がした。
雨月は烏の行水だ。いつものように30分くらいで出てくるだろう。
欠伸を零し、ごろりと横になる。そして、オレはそのままうたた寝してしまった。
*****
ふと起きて時計を見ると、眠ってしまってから1時間が経過していた。
だが、風呂場からシャワーの音が聞こえて首を傾げた。
オレが眠ってしまってから1時間は経っている。にも関わらず、あいつはまだ上がってきていない。烏の行水のあいつが。
鳴り止まないシャワーの音に、嫌な予感がした。
…いや、偶々今日は長風呂したかったって事もあるだろ
そうは思うものの、オレの足はゆっくりと風呂場へと向かう。
「おい」
風呂場のすりガラスの扉の前に立ち、低く短く呼び掛けてみる。
「………」
だが、相変わらずシャワーの音はすれども、返事が無い。もう一度呼びかけてみる。
「おい」
「………」
「…チッ。お前、聞いてんのか───」
待てども帰って来ない返事に痺れを切らし、扉を開けるとそこには──
「!」
床に倒れている雨月がいた。
抱き起こすと、僅かに反応があった。生きている事にほっとしたが、息が荒い事に気がつく。
もしやと思い、額に手をやると
「チッ、熱かよ」
バスタオルで雨月の体を包み込み、抱き上げてベッドまで運んだ。
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