終の九生

碧月 晶

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「え…ここが目的の場所?」

首肯する八代君に困惑する。え?俺たちって相田さんを探してたんだよね?

「ここに相田さんがいるの?」
「そうじゃ。白炎びゃくえんが仕えておる神が仰るには、じゃがな」
「え?」

どういう事?

「あのお方は五穀豊穣の神。故にこの土地で起きる出来事に対して予言のような事が出来る」
「じゃあ、あの時白炎さんが言ってた伝言って…」
「…この時期、この地方では北東より風が吹く。そして、この辺りにその風が吹く野原はここしかない」

なるほど。だから、八代君はここに来たのか。…あれ?でも待てよ。それじゃあ、

「最初はどこに向かう予定だったの?」
「…宿を出た時に話した事を覚えておるか」
「え?えと…」

確か…ああ、そうだ。

「今日のお昼にあったっていう事故の現場に行くつもりだったんだっけ?」
「ああ」

今更だけど、何でそんな所に? その事と相田さんとに何の関係が……

「…まさか」

思い至った考えに、信じられない思いで八代君を思わず見る。

「そのまさかじゃ」

否定して欲しかった。けれど、八代君の真っ直ぐな眼がそれが正解だと物語っていた。

「な、何で?」
「…お主、言うておったな。その者は猫たちと戯れていたと」
「う、うん。言ったけど…それがどうかしたの?」
「お主も知っての通り、猫たちはワシの式神じゃ。故に、あの世の者でもない限り、普通の人間がこの世の者ならざる猫たちを視る事は出来ん」
「え…?」

普通の人には、視えない?

「しかし、一つ例外がある」
「例外?」

困惑する俺を見ながら、八代君は静かに告げた。

「死期が近い人間には、稀に視える事がある」
「!」

その言葉に、俺は相田さんが『湯治に来ている』と言っていた事を思い出した。

「じゃが、別にそれ自体を問題視している訳ではない」
「…どういう事?」
「問題なのは、相田という人間が本来ならば『病死』するはずじゃったという事じゃ」
「え…?」

病死? でも、相田さんは…

「事故死したんじゃ…」

そう。相田さんは今日の昼に起きた事故で車に轢かれて亡くなっているはずなのだ。

「そうじゃ、事故死しておる。じゃが、ワシが聞いたのは今日の昼に一人の人間が死んだ事と、その人間の魂が未だ見つかっておらんという事じゃ」

魂が見つかっていない?

「な、何で?」
「通常、魂は死んだ場所からそう遠くへは離れられん。そうじゃな…半径2キロ程度が限界じゃ。従って、その範囲を探せば見つかる事が多い。じゃが、相田の魂はここいら一帯にはいなかった」
「じゃ、じゃあ一体どこに──」

あ。その瞬間、全てのピースが揃ったような気がした。

「白炎さんがわざわざ伝言を届けに来たのって…」
「ワシらが相田を探す事を分かっておられたのじゃろうな」

だから白炎さんを伝言役に寄越した、と。

八代君の話から察するに、この野原はその事故現場からかなり離れているのだろう。
それに、あの時白炎さんは「俺たちはもう一体の捜索を命じられている。貴様も務めを果たすんだな」と言っていた。
あれは、暗に『自分たちは手を出さないから、そちらで早く片付けろ』という意味の神様からの気遣いだったのだと今なら分かる。

…けれど、そうだとしたら、一つ分からない事がある。

「ねえ、八代君」
「何じゃ」
「白炎さんが仕えてる神様ってこの辺り一帯を管理してる神様なんだよね?」
「そうじゃ」
「なら、何で自分が管理してる土地で起こった事なのに、その神様が対応しないで譲ってくれるの?」
「………それは──」

と、その時だった。

『それは君のせいだよ』

頭の中に直接語り掛けるような声がしたのは。

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