終の九生

碧月 晶

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(十八)

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それから更に一ヶ月経ったが、八代君に再び出会う事はなかった。

 

俺はというと、相変わらずドジを踏んでいたが、不思議な事にその失敗の『程度』がいつもやらかすものより軽いものになったように感じていた。

 
例えば、炭酸のジュースを飲もうとして、普段ならば十中八九噴き出すのに今は3回に2回くらいの頻度で噴き出さなくなったのだ。

ささやかな変化だが、それが当たり前だった俺にとっては信じられない変化だった。

 
「おい久住ぃ、お前最近失敗が減ってきたんじゃないのか~?」

 
仕事帰り、今日は山田さんと吉田さんとで飲みに行った。

千鳥足の山田さんを俺と吉田さんで両サイドから支えて、帰路につく。


「え、本当ですか!」
「ええ。前よりも着実に減ってきてますよ」


自分でも最近ミスが減ってきたなと思い始めていたので、そう言って貰えて嬉しくなる。


「山田さんと吉田さんのご指導のお陰ですよ。いつも本当にありがとうございます」
「お前は若いのに苦労しとるからな~頼ればいいんだよ頼ればなー」
「山田さん…はい!」


俺の身の上を知ってくれている事もあってか、その言葉は俺の胸にジーンと響いた。


「だがなあ! あの若造はどうにも気に入らん!いつもいつも偉そうに!」
「ちょっと山田さん、暴れないで下さいよ」


途端に地団駄を踏んで暴れ出した山田さんを慣れた様子で吉田さんが言い含める。


「すみませんね、久住君」
「いえ」
「いつもはこんなに飲まないんですけど、今日は飲みたい気分だったんでしょうねぇ」
「チーフの事ですか?」
「いえ、君の成長が嬉しかったんだと思いますよ。この人、素直じゃないですから。お酒の力でも借りないと言えなかったんでしょう」


昔から運が無くて辛い思いも沢山したけれど、人との出会いは悪いものではなかったと思う。


「俺…そこで水買ってきますね!」


嬉しくて、泣いてしまいそうになって、誤魔化すように背を向けて目元を擦った。

吉田さんは多分気付いていただろうけれど、「お願いします」と優しく答えてくれた。
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